膀胱癌に対する膀胱温存療法

がんの浸潤度が高く内視鏡手術によって十分に切除できないときには、膀胱を周辺臓器ごと取り去る「膀胱全摘除術」が必要です。しかし、「膀胱全摘除術」は相当量の出血があり、手術時間5~10時間と体に負担のかかる手術です。また、本来の尿をためる袋がなくなってしまうため、下腹部に集尿器をつける必要があります。そのため、膀胱摘除後の生活は今とは異なります。

臓器の機能を失わずにがんを治すことがもっとも理想的な治療であることはいうまでもありません。放射線治療、抗癌剤治療を組み合わせることによって、膀胱機能をそのまま残るように、膀胱を取らずに癌を治す取り組みを行っています。しかし、膀胱全摘除術が標準的治療であるのに対して、膀胱温存治療はいまだに実験的治療であり、ちょうどよい薬剤の種類、量、放射線の量は決まっていません。北大では以下の患者さんを対象に膀胱温存治療を試みています。

  1. 患者さんの心臓や肺、肝、腎臓などの機能が悪いため、手術に大きな危険を伴う場合。
  2. 膀胱温存治療をうける場合の合併症や不利益について、患者さんが良くご理解された上で、この治療を望まれる場合。

1.スケジュール

膀胱温存治療の柱は、膀胱への放射線照射です。これに加えて、効果を高めるために抗がん剤の点滴を定期的に行います。副作用を防ぐために、治療は10週間をかけて行われます。

入院後 内視鏡手術で膀胱の組織を検査
検査結果をふまえて、主治医と患者で相談
開始前の週 放射線科を受診し、CTで正確な照射範囲を設定
第1週 1日目:抗がん剤点滴、
2日目~:放射線照射開始(3回)
第2週 放射線照射(4回)
第3週 放射線照射(3回)
第4週 1日目:抗がん剤点滴、
2日目~:放射線照射(3回)
第5週 放射線照射(4回)
第6週 放射線照射(3回)
第7週 腰椎麻酔をかけて内視鏡・組織検査(放射線照射はお休み)
治療効果をみるために組織を一部採取し、さらに、
集中的に放射線照射をするために目印を埋め込みます。
第8週 1日目:抗がん剤点滴
2日目~:放射線照射(3回)
第9週 放射線照射(4回)
第10週 放射線照射(3回) これで終了です
6か月後 再入院の上、麻酔をかけて、内視鏡・組織検査

開始当初は入院で治療しますが、第5週以降は外来通院で行えます。ただし、第7~8週は検査と点滴のために再入院していただきます。放射線照射治療は1回につき5~10分で終わります。抗がん剤の点滴は1日だけですが、点滴は3~4日行います。

2.合併症

抗がん剤はいろいろな臓器に毒性がありますが、この治療で使う抗がん剤は「アクプラ」という比較的腎臓への毒性の少ない薬です。治療によって以下のような合併症が起こりえます。

皮膚障害 下腹部や肛門周囲の皮膚が赤くただれる。一般に照射終了後よくなります。
直腸障害 便意を催すような感覚、便への出血など。治療中は60~70%の方に生じますが、便通を整える薬や線維野菜が効果的です。しかしながら、時に治療後も出血が長引く方がいます。
膀胱障害 頻回に排尿したくなる、血尿が混じる。程度が強い場合には、膀胱が萎縮してしまうことがあります。
消化器症状 吐き気、胃のむかむか肝、食欲がなくなる。抗がん剤を点滴した第1,4,8週に多く起こります。吐き気止めと胃の粘膜保護剤で対処します。
脱毛 毛が抜ける。治療終了後3-6か月でほぼ元に戻ります。
白血球減少 細菌感染に抵抗力がなくなる。第2,5,9週に多くみられます。極端に抵抗力が落ちた場合は入院が必要です。
血小板減少 血が止まりにくくなる。入院での安静が必要な上、時に成分輸血が必要となります。
末梢神経障害 手足の指先のしびれ感を生ずることがあります。

それぞれに対処法があり、程度を軽くすることができますので、治療中・後はよく主治医と相談して下さい。

3.この治療の欠点は

治療が10週間もかかるため、膀胱全摘除術を行う場合よりも時間を要します。また、この治療によっても、効果が十分でないことや、一度がんが消失した後に浸潤がんが再発することがあります。そのような場合、可能であれば膀胱全摘除術を行うことをおすすめします。ただし、小腸に放射線が影響を及ぼしているため、放射線治療を行う前であれば選ぶことができた尿路変更の術式が制限されます。

筋層よりも深く癌が浸潤した膀胱癌が相手ですので、どのような治療法を受けても癌が100%治る保証はありません。標準治療法である根治的膀胱全摘除術を受けた場合でも、治る確率は、筋層まで浸潤したT2膀胱癌では100人中、60-80人、膀胱の外まで浸潤したT3膀胱癌では約30-40人です。我々が用いている方法とほぼ同じ放射線化学療法では、癌を完全におさえこめるのは100人中、40-50人です。治療後に、膀胱に浸潤癌が再発してしまい膀胱を摘出することができない場合の治療は大変難しいものとなります。このようなリスクはあるものの、「是非とも膀胱を取りたくない、残したい」という希望の強いかたであれば意義のある治療と考えています。

[version 1.1 最終更新日  2001-08-14  文責:原林 透]