前立腺がん

更新日:2018/02/15、文責:古御堂純、平田由里絵、丸山 覚

概説

前立腺について

前立腺は、膀胱の下に位置して尿道を取り囲んでいる組織で男性にしかありません。前立腺は精液のもとになっている前立腺液を作っています。加齢によって前立腺が大きくなり、頻尿や残尿感といった下部尿路症状を生じることがあります(前立腺肥大症)。

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前立腺がんとは

前立腺がんは前立腺から発生するがんで、多くは腺がんという種類です。前立腺がんはPSA検査や画像診断で診断されます。早期の場合は症状はありません。前立腺の局所の症状としては排尿障害や血尿、転移をきたすことによって骨痛や神経麻痺がみられることがあります。男性ホルモン(テストステロン)が病気の進行に重要と言われています。

疫学

欧米人に多く、高齢の男性に好発します。食事や肥満や糖尿病などの生活習慣病が一因ともいわれています。遺伝性も指摘されており、親兄弟に前立腺がん患者がいた場合、罹患危険率は2.4~5.6倍になるといわれています。わが国では2011年における前立腺がんの年齢調整罹患率は、10万人当たり66.8人で男性がんの第3位ですが、今後増加するといわれています。死亡率は10万人あたり7.3人で徐々に減少傾向のようです。
前立腺がんの多くは数十年の経過で極めて緩徐に成長すると考えられ、前立腺がん保有者の多くは診断されることなく他疾患で死亡し、一部が検診あるいは臨床症状の発現から診断されていると推定されます。しかし、臨床的に診断される前立腺がんの一部は進行して致死的になりえます。

検査

前立腺がんが疑われる場合は、以下の検査を行います。

  • PSA検査(後述)
  • 直腸診検査:肛門から指を入れて前立腺の硬さ、大きさを調べます
  • 超音波検査:前立腺や精嚢の形態をベッドサイドで調べることができます

以上の検査で前立腺がんが疑わしい場合、前立腺から直接組織を取る「生検」を行います。通常は肛門からエコーを挿入して針で10-12か所本検体を採取します。入院で行うところや外来で行うところ、麻酔をかけるかどうかについては施設によってまちまちです。

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前立腺がんが確定した場合は以下の検査を行います。

  • CT:リンパ節や肺や肝臓などへの転移の有無を確認します
  • MRI:前立腺内のがんの広がりを確認します
  • 骨シンチグラフィ:薬剤を静脈内に投与し、骨に異常な集積がないかどうかを調べる検査です。骨転移の有無を確認します。

これらを総合して治療方針を決定します。

PSA検査について

PSA(Prostate Specific Antigen:前立腺特異抗原)は前立腺で産生される蛋白で、血液の中にわずかに溶け込みます。血液中のPSAの値を測定することができ、この値が高いと次のような前立腺の病気の可能性があります。

  1. 前立腺肥大症:前立腺が大きくなるもので、50歳以上の男性に多く、排尿困難になることがあります。
  2. 前立腺炎:前立腺の感染や炎症です。
  3. 前立腺がん

PSA検査は簡単な血液検査ですが、PSAの値だけで前立腺がんの有無がわかるわけではありません。0~4.0ng/mlを一般に正常値とみていますが、4.0ng/ml以上であっても前立腺がんでない人は多いですし、4.0ng/ml未満だからといって絶対に前立腺がんではないと断言することはできません。PSAの値とがんの可能性を示す表です。

PSA (ng/ml) がんの可能性
~4.0 数%
4.0~10 10~30%
10以上 50%以上

また、最近では年齢ごとにPSAの正常値を設定することもあります。50~64歳では0~3.0ng/mL、65~69歳では0~3.5ng/mL、70歳以上では0~4.0ng/mLと正常値を設定することによって前立腺がんの死亡リスクを減少することが報告されています。

年齢 (歳) PSA (ng/ml)
50~64 0~3.0
65~69 0~3.5
70以上 0~4.0

前立腺がんを早期に発見するためにはPSA検査と直腸診が必要です。ヨーロッパでは50歳を超えた段階で将来の前立腺がん発症リスクを把握するため、PSA検診が推奨されています。PSA検診を受けることで根治できる早期の段階で前立腺がんを発見することが可能になります。ここで重要なことは、PSA検査と直腸診を一方だけではなく、両方とも行った方が前立腺がんを発見するのに効果的であるということです。適切な検診間隔については、PSA<1.0ng/mLの場合は3年ごと、PSA≧1.1ng/mLの場合は毎年の検診が一つの目安です。しかし、PSA検査だけでは、がんを発見できない可能性もあります。がんが小さすぎる場合に直腸診で触知できずPSAも上昇していないことがあるからです。一見健康な人も前立腺がんを持っている可能性があります。PSAが高かったり直腸診でがんが疑われたりすればさらに精査が勧められます。
また、前立腺がんは先ほども述べたように一般的には進行が遅いがんであり、がん検診の必要性は、期待余命が10~15年あるかどうかということが重要といわれています。つまり、前立腺がんは進行が遅いため、前立腺がんが見つかったとしても、将来的にそのがんが原因で寿命を迎えず他の疾患が原因で寿命を迎えることが多い、ということです。では、何歳までPSA検診を受けるべきでしょうか。2014年の厚生労働省の平均余命表では、期待余命が10-15年というと70-75歳くらいです。実際アメリカでは、70歳以上の高齢者にPSA検診は必要ないといわれています。しかし、現在はわが国では80歳以上の高齢者の35.3%がPSA検診を受けている現状もあります。いまのところ余命を組み入れた前立腺がん検診システムは実践されてはいません。また、前立腺がんは総じて緩徐な進行を認めますが、臨床的に診断される前立腺がんの一部は進行がんとなり致死的になり得ることを念頭に入れる必要があります。

PSA監視療法

PSA監視療法とは、前立腺がんと診断されても、すぐに治療をせず、PSAを測定しながら経過を見る方法です。なぜこのような治療が可能かというと、前立腺がんは一般的には進行が遅いがんであるからです。注意して経過観察をすることにより、不必要な治療とそれ伴う合併症を避けることができると言われています。適応になるのは低リスクの患者さんです。3—6ヶ月ごとにPSA採血を行い、開始1年目に前立腺生検を行います。監視療法を継続する場合には、その後も定期的に前立腺生検を行っていきます。がんの進行が見られる場合には積極的治療を行います。だいたい30-40%くらいの人が1年目の生検結果で、積極的治療が必要になると言われています。

早期前立腺がんの治療選択について

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早期前立腺がんの治療選択に関するパンフレットはこちらからダウンロードできます

薬物療法

前立腺がんは男性ホルモン(テストステロン)により増殖していますので、どんなに進行していてもテストステロンを減少させたり妨害したりするホルモン療法は効果があり、がんの増殖を遅くすることで腫瘍を縮小し病気に伴う症状を軽くすることができます。

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(図)東邦大学医療センター 佐倉病院 鈴木啓悦先生より

男性ホルモンは精巣で作られているので、手術で両方の精巣を取ることによりテストステロンが効果的・永久的に減少します。精巣摘除術は簡単な手術で、ほとんどは腰椎麻酔による下半身麻酔で行います。しかし、両方の精巣を取ることは男性にとって精巣というシンボルをなくすことであり、ためらう人が現れました。そこで1971年に男性ホルモンを抑える注射が発明されました。LH-RHアナログといわれる注射剤は、精巣からのテストステロン産生を促すLH-RHという天然のホルモンに似た物質を人工的に作ったものですが、毎月注射すると精巣を刺激するホルモンを抑えることができ、精巣からのテストステロン産生が減少します。外科的去勢である精巣摘除術に対して薬物的去勢ともいわれます。この治療のためには月に1回注射のために病院に来なければなりません。状態が落ち着けば、3ヶ月に1回の注射である3ヶ月製剤や、6カ月に1回の6ヶ月製剤に変更することも可能です。外科的去勢術と薬物的去勢を合わせて、内分泌療法と呼ばれます。内分泌療法の主な副作用は勃起不全と体のほてり感や発汗(ホットフラッシュ)です。これらの副作用は女性の更年期障害のような症状をきたし、外科的去勢でも薬物的去勢でも現れます。また注射剤に限っては、治療の最初の数週間に排尿困難や排尿痛などの症状が一時的に増強することもあり、注射部位の皮膚障害や薬物による肝障害などの副作用の可能性もあります。この精巣摘除術と薬物的去勢については、どちらが長生きできるか、どちらがより良いのか、という結論は出ていません。患者さん本人、家族の方々のいろいろな考え方があり、担当医と相談することが望ましいです。内分泌療法は手術や放射線治療を行うことが難しい場合や、放射線治療の前あるいは後、がんがほかの臓器に転移した場合などに行われます。

上記の去勢術に加えて、抗アンドロゲン剤という内服薬があります。副腎から産生される少量のテストステロンの作用を抑えることが期待できます。抗アンドロゲン薬は毎日内服します。副作用には体のほてり感や勃起不全のほかに嘔気嘔吐や下痢、肝障害があります。現在の前立腺がんに対する内服治療は、去勢術(外科的もしくは薬物的)+抗アンドロゲン剤で行うのが主流です。

また、女性ホルモンであるエストロゲンを内服薬で投与する方法もあります。エストロゲンも精巣を刺激するホルモンを抑えることで精巣からのテストステロン産生を減少させます。この作用に加えて前立腺がん細胞に直接作用する薬もあります。副作用には上記とは異なり、浮腫、乳房の腫大や疼痛があり、また、重大な心臓や血管の病気(血栓症や心臓発作など)を引き起こしたり増強させたりすることがあります。さらに、デキサメタゾンといった副腎ホルモンの内服薬も治療になります。この薬を内服すると副腎を刺激するホルモンを抑えることで副腎からのテストステロン産生能が抑えられるといわれています。今までのホルモン療法で効果がなくなった場合に使われることがあります。この薬剤の副作用には、顔が丸くなったり太ったりするほかに糖尿病の原因になったり感染に対する抵抗力が低下することがあります。また、胃に負担がかかったり、骨がもろくなったり、皮膚が薄くなることもあります。また、2014年に「新規ホルモン薬」といってアンドロゲンの受容体に作用する薬剤、男性ホルモンの産生にかかわる薬剤が登場し、前立腺がんの内服治療がより複雑になっています。しかし、これらの内分泌療法の問題点は、長く治療を続けていると反応が弱くなり、落ち着いていた病状がぶり返す「再燃」が生じることです。内分泌療法は前立腺がんに対して有効な治療法ですが、この治療のみで完治することは困難であると考えられています。

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(図)東邦大学医療センター 佐倉病院 鈴木啓悦先生より

このように治療が困難になってきた場合、化学療法(抗がん剤)が使用されます。抗がん剤を血液とともに全身を循環させて増殖の早い細胞を殺す方法です。これによりがん細胞の他に正常の健康な細胞も障害を受けます。重篤な血球減少や感染症、手足のしびれ、食欲不振、全身倦怠感、下痢、脱毛などの副作用が現れます。健康な細胞への害を減らすために抗がん剤は使用量と使用頻度のコントロールに注意が払われます。前立腺がんの場合は1か月に1回の点滴が必要です。現在のところホルモン療法ほどの確実な方法ではなく、また化学療法には多くの副作用があり、最初からは使われません。しかし、近年の海外の臨床試験では未治療進行性前立腺がん患者に対してホルモン療法と化学療法の併用が効果的であるという報告もあり、将来的にわが国でも広く使用できるようになる可能性があります。

最後にですが、前立腺の疾患で問題が起これば泌尿器科医に紹介されることになるでしょう。泌尿器科医は尿路性器系の病気の診断と治療について専門的にトレーニングされた医師です。医師と十分に話し合い治療の選択肢を理解して納得した治療を受けられるようにしてください。

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  • 2018/02/15