HOME > 病気 > 前立腺癌

前立腺がんについて皆さんに知ってもらいたいこと
(第2版)


北海道大学医学部泌尿器科 腫瘍グループ 作成
(最終更新日: 06/08/2003  文責 佐藤聡秋、原林 透)


はじめに

このパンフレットは、以下の方々を対象に、前立腺がんを理解してもらうことを目的に、病気の性質から診断・治療方法まで広く浅く説明しています。
■ 前立腺がんという病気を初めて知った方
■ 前立腺がんの検診を受けようと思っている方
■ 前立腺がんの疑いがあると言われた方
■ 前立腺がんと診断されて治療を受ける予定の方

このパンフレットを読めば、あなたの多くの疑問は解決すると思いますが、もっと詳しく知りたければ泌尿器科医に直接御相談ください。 このパンフレットの中にはあなたに馴染みの少ない医学用語がいくつかありますので、文章中に出てくる主な医学用語の解説を最後にのせています。

INDEX

1. 癌とは何でしょうか
2. 前立腺とは何でしょうか
3. 前立腺がんは多いのでしょうか
4. 前立腺がんの原因は何でしょうか
5. 前立腺がんにどのような症状があるのでしょうか
6. 6. 前立腺がんが大きくなる原因は何でしょうか
7. 前立腺がんはどのように発見されるのでしょうか
8. 前立腺がんにおける病期と治療方針はどうなのでしょうか
9. 前立腺がんの治療はどのようなものなのでしょうか
10. 前立腺がんを治療するのは誰でしょうか
11. 用語の解説


1. がんとは何でしょうか

 がんは異常な細胞がコントロールを受けずに増殖し広がる病気です。人間の体は無数の細胞からできています。細胞は分裂して自己複製することにより増殖します。組織の新陳代謝が起こるのも傷が治るのもそのおかげです。異常に増殖した細胞の集団を腫瘍と呼び、それには良性腫瘍と悪性腫瘍があり、悪性腫瘍をがんといいます。
 良性腫瘍は大きくなって体の機能を妨げることはありますが、命を脅かすことは滅多にありません。一方、がんは正常組織に浸潤して破壊します。転移とは、細胞が腫瘍から離れて血管やリンパ管を通って体の他の部位に移動して別の腫瘍を形成することです。がんの増殖や転移には早いものもあれば遅いものもあります。前立腺がんは一般的には増殖の遅い部類に入るがんです。

2. 前立腺とは何でしょうか

 前立腺は男性だけにあり、栗くらいの大きさの分泌腺です。膀胱のすぐ下にあり尿道(排尿中に膀胱からの尿が通る管)の一部を囲んでいます。前立腺の主な役割は射精のために必要な液体の一部を産生することです。

3. 前立腺がんは多いのでしょうか

 前立腺がんはアメリカの男性の中で2番目に死亡数が多いがんです。日本においては、男性のがんの中で死亡数は9番目ですが徐々に増加しています。前立腺がんは高齢者に多く40歳代からみられ50歳以上で多くなります。

1994年の前立腺がんの罹患率(人口10万人あたり)
(厚生省がん研究助成金「地域がん登録の精度向上と活用に関する研究」 1998年報告)

4. 前立腺がんの原因は何でしょうか

 多くのことが近年の遺伝子解析でわかってきましたが、前立腺がんの本当の原因はまだ分かっていません。分かっていることはがん細胞の集団である腫瘍が前立腺の中にできることから始まるということです。

5. 前立腺がんにどのような症状があるのでしょうか

前立腺がんは、早期では全く症状を伴わないません。そのため定期健診が勧められています。がんが進行すると大きくなって尿道を圧迫するようになり、膀胱からの尿の流出を妨げます。この段階で、多くの人は頻尿になりますが、尿が出に くくなったり、時々痛みを伴うこともあります。他には尿や精液に血液や膿が混じったり射精時に痛みを伴うことがあります。また、前立腺がんがリンパ節や骨などの臓器に広がると骨や関節、特に背中や腰に痛みを伴うことが多くなります。前立腺がんの症状はしばしば前立腺肥大症と似ています。いずれも高齢男性に多く、前立腺の体積が増加することにより頻尿が出現します。前立腺肥大症は前立腺の内腺が過度に増大したもので、がんではありません。前立腺肥大症か前立腺がんかを区別する唯一の方法は泌尿器科医に検査してもらうことです。

6.前立腺がんが大きくなる原因は何でしょうか

 正常の前立腺の増殖や機能は男性ホルモンであるテストステロンに影響されています。テストステロンはほとんどが精巣で産生されますが副腎でもわずかに産生されます。テストステロンは前立腺がんを刺激します。テストステロンが産生されていると前立腺がんは増殖して広がり続けます。

7. 前立腺がんはどのように発見されるのでしょうか

直腸診:医師が手袋をはめてゼリーをつけた指を患者さんの肛門から直腸に入れて直腸壁ごしに前立腺の大きさや形を診察します。直腸診はほとんど時間がかからず、患者さんの不快感も思ったほどではありません。

PSA検査:PSA(前立腺特異抗原)は前立腺で産生される蛋白で、血液の中にわずかにとけ込みます。血液中のPSAの値を測定することができ、この値が高いと次のような前立腺の病気の可能性があります。

(1) 前立腺肥大症 :前立腺が大きくなるもので、50歳以上の男性に多く、排尿困難になることがあります。
(2) 前立腺炎 :前立腺の感染や炎症です。
(3) 前立腺がん

 PSA検査は簡単な血液検査ですが、PSAの値だけで前立腺がんの有無がわかるわけではありません。0〜4ng/mlを一般に正常値とみていますが、4ng/ml以上であっても前立腺がんでない人は多いですし、4ng/ml未満だからといって絶対に前立腺がんではないと断言することはできません。

        
PSA (ng/ml) 癌の可能性
〜4 数%
4〜10 10〜30%
10以上 50%以上

 50歳以上の男性は前立腺がんを早期に発見するためにPSA検査と直腸診を健診のつもりで毎年受けることをお勧めします(アメリカでは40歳以上の男性全員に勧めています)。そうすることで根治できる早期の段階で前立腺がんを発見することが可能になります。ここで重要なことは、PSA検査と直腸診を一方だけではなく両方とも行った方が前立腺がんを発見するのに効果的であるということです。
 がんを発見できない可能性もあります。がんが小さすぎる場合に直腸診で触知できずPSAも上昇していないことがあるからです。一見健康な人も前立腺がんを持っている可能性があります。PSAが高かったり直腸診でがんが疑われればさらに精査が勧められます。

超音波検査:
 医師が患者さんの直腸の中に小さな機械(プローブ)を入れて、その機械から無痛性の音波を出します。前立腺で反射して戻ってきた音波を画像に変換することにより、モニタ画面で前立腺の状態をみることができます。

針生検:
 前立腺がんが疑われれば針を用いて前立腺組織を少量とることができます。この組織を顕微鏡で検査しがん細胞があるかどうか確認します。これでがん細胞を証明することが前立腺がんと診断する確実かつ唯一の方法です。

8. 前立腺がんの病期と治療方針はどうなのでしょうか

 最善の治療を選択するためには前立腺がんの広がりの程度、すなわち病期を診断することが重要です。前立腺がんの治療は病期によって異なります。治療方針を立てる場合には患者と医師が各々の治療の利点と欠点を話し合うことが重要です。これから前立腺がんの4つの病期と治療方針を述べていきます。

病期A:
 がんは前立腺の中にとどまり、かつ小さいために、直腸診では発見で きず、他の診断方法で発見されることがあります。この病期では症状がないこ とが一般的で、経過観察で構わない場合もありますが、治療をすれば根治でき ると考えられます。この治療には前立腺摘除術と放射線療法があります。

病期B:
 がんはまだ前立腺の中にどどまっていますが、直腸診でわかるくらい まで大きくなっています。この病期でも症状がないことがしばしばあります。 治療すれば根治できると考えられ、前立腺摘除術か放射線療法が一般的です。

病期C:
 がんは前立腺からすぐ周りの部位に広がっています。この病期ではしばしば排 尿困難を伴います。治療には前立腺摘除術や放射線療法があります が、ホルモン療法もあります。この病期における治療の目的は前立腺がんの進 行を遅くすることと排尿痛や排尿困難などの症状を軽くすることにあります。

病期D:
 がんは骨やリンパ節のような前立腺以外の部位に広がっています。こ の病期の主な症状には排尿困難、骨の痛み、体重減少、疲労感があり、治療の 目的はこれらの症状を軽くすることにあります。治療はホルモン療法が中心で、 症状改善のための手術を施行することもあります。

9. 前立腺がんの治療はどのようなものなのでしょうか

 前立腺がんはテストステロンにより増殖していますので、どんなに進行していてもテストステロンを 減少させたり妨害するホルモン療法は効果があり、がんの増殖を遅くすること で腫瘍を縮小し病気に伴う症状を軽くすることができます。また、転移がない 前立腺がんに対しては、前立腺摘除術や放射線療法により根治が期待できます。

前立腺摘除術:
 前立腺をとる手術で、早期のがんを転移させない最も確実な 方法です。同時に骨盤リンパ節郭清(がんが転移しやすい前立腺の近くのリン パ節を摘除すること)も行います。前立腺摘除術に伴う合併症には勃起不全や 尿失禁などがあります。勃起に関わる神経を温存できる場合もありますが、勃 起不全は多くの患者で起こります。どんな手術にでも起こるような重大な合併 症も起こりえます。

放射線療法:
 高エネルギーのX線を用いて前立腺のがん細胞を殺します。放射 線療法は前立腺摘除術に伴う勃起不全や尿失禁の可能性を避けたい患者に適し ています。副作用には疲労感、照射域の皮膚反応、頻尿や排尿痛、胃部不快感、 下痢、直腸の刺激症状や出血などがあります。これらの副作用の多くは治療を 中止すると消えます。また、放射線療法には前立腺に照射する根治的治療のほ かに、再発巣や転移巣に照射して症状を緩和する治療もあります。

精巣摘除術:
 進行性前立腺がんに対して古くから行われている治療法で、両方 の精巣をとることによりテストステロンが効果的・永久的に減少します。精巣 摘除術は簡単な手術で、ほとんどは腰椎麻酔による下半身麻酔で行います。主 な副作用は勃起不全と体のほてり感です。

LH-RHアナログ:
 LH-RHアナログは精巣からのテストステロン産生を促す LH-RHという天然のホルモンを人工的に作ったものですが、毎月注射すると精 巣を刺激するホルモンを抑えることができ、精巣からのテストステロン産生が 減少します。外科的去勢である精巣摘除術に対して薬物的去勢ともいわれます。 この治療のためには月に1回注射のために病院に来なければなりません。主な 副作用は精巣摘除術と同様に勃起不全と体のほてり感です。また、治療の最初 の数週間に排尿困難や排尿痛などの症状が一時的に増強することもあります。

女性ホルモン:
 女性ホルモンであるエストロゲンを投与する比較的簡単な治療 法で、薬を毎日内服する方法もあります。エストロゲンも精巣を刺激するホル モンを抑えることで精巣からのテストステロン産生を減少させます。この作用 に加えて前立腺がん細胞に直接作用する薬もあります。副作用には上記2つの 去勢療法とは異なり、浮腫、乳房の腫大や疼痛、胃部不快感、嘔気嘔吐があり、 また、重大な心臓や血管の病気(血栓症や心臓発作など)を引き起こしたり増 強することがあります。

抗アンドロゲン薬:
 テストステロンが前立腺がん細胞に作用するのを妨害するので副腎から産生される少量のテストステロンの作用も抑えることが期待でき ます。抗アンドロゲン薬は毎日内服します。先に述べた去勢と併用すると効果的であるとしてLH-RHアナログとの併用を勧めることもあります。この併用療法の副作用には体のほてり感や勃起不全のほかに嘔気嘔吐や下痢、肝障害があります。

副腎皮質ホルモン:
 この薬を内服すると副腎を刺激するホルモンを抑えることで副腎からのテストステロン産生能が抑えられると言われています。今までの ホルモン療法で効果がなくなった場合に使われることがあります。この副作用 には顔が丸くなったり太ったりするほかに糖尿病の原因になったり感染に対する抵抗力が低下することがあります。また、胃に負担がかかったり、骨がもろ くなったり、皮膚が薄くなることもあります。

化学療法:
 抗がん剤を血液とともに全身を循環させて増殖の早い細胞を殺す方 法です。これによりがん細胞の他に正常の健康な細胞も障害を受けます。健康 な細胞への害を減らすために抗がん剤は使用量と使用頻度のコントロールに注 意がはらわれます。いろいろな抗がん剤があり他剤と併用して用いられること もあります。これらはおもに進行性前立腺がんの症状を軽くするために用いら れます。現在のところホルモン療法ほどの確実な方法がなく、化学療法には多 くの副作用があり、最初からは使われません。

遺伝子治療:
 日本やアメリカの一部の施設で実験的に行われているにすぎません。

10. 前立腺がんを治療するのは誰でしょうか

 前立腺の疾患で問題が起これば泌尿器科医と呼ばれる専門家に紹介されるこ とになるでしょう。泌尿器科医は尿路性器系の病気の診 断と治療について専門的にトレーニングされた医師です。泌尿器科医は患者の 前立腺の症状の原因が前立腺肥大症にあるのか前立腺がんにあるのかを診断し ます。医師と十分に話し合い治療の選択肢を理解して納得した治療を受けられ るようにしてください。

11. 医学用語の解説

悪性腫瘍
  :がんである腫瘍。
エストロゲン
  :女性ホルモン。
LH-RHアナログ
  :テストステロンの産生を促す天然のLH-RHというホルモンに似た人工生成物で、毎月注射すると精巣を刺激するホルモンが抑えられる。
化学療法
  :抗がん剤による治療。
去勢
  :精巣からのテストステロンをなくするための治療。
抗アンドロゲン薬
  :テストステロンが前立腺に作用するのを妨害する薬。
骨盤リンパ節郭清
  :がんが通りそうな前立腺に近いリンパ節を検査のためにとること。
根治
  :病気を完全になくすこと。
射精
  :精液を放出すること。
腫瘍
  :異常に増殖した細胞の集団。
副腎皮質ホルモン(ステロイド)
  :副腎で産生されるホルモンと同じ作用をもち、多くの作用があるためにいろいろな病気に使われている。
精液
  :精子を運ぶために前立腺から分泌される濃厚な白っぽい液体。
生検
  :診断のために体から組織を少しとること。
精巣摘除術
  :精巣を手術的にとること。
前立腺
  :男性だけにある膀胱のすぐ下の分泌腺で精液の一部を産生する。
前立腺炎
  :前立腺の感染や炎症。
前立腺がん
  :前立腺の中で発生するがん。
前立腺摘除術
  :手術で前立腺をとり去ること。
前立腺肥大症
  :前立腺の内腺が過度に増大した良性の病気。
組織
  :特定の機能のために集められた細胞の集団。
超音波検査
  :超音波を利用し、反射してきた音波を画像に変換することで体の内部を観察する検査。
直腸
  :肛門から10センチくらいまでの腸管の最後の部分。
直腸診
  :前立腺がんのスクリーニングによく行われる方法で、医師は手袋をはめてゼリーをつけた指を直腸に入れて直腸壁ごしに前立腺の大きさや形を触診する。
テストステロン
  :男性ホルモンで、主に精巣で産生されるが副腎でも少量産生される。テストステロンは男性の性活動や前立腺などの性器を刺激する。
転移
  :体の別の部位に病気が広がること。
尿
  :おしっこ。小便。お小水。
尿道
  :膀胱からの尿や性腺からの精液を体外へ運ぶ管。
尿失禁
  :尿をもらすこと。
PSA(前立腺特異抗原)
  :前立腺でのみ生成される物質。
PSA検査
  :PSAの値を測定する血液検査。高値ならば前立腺がんの可能性がある。
泌尿器科医
  :尿路性器系の病気の診断と治療について専門的にトレーニングされた医師。
病期
  :がんの広がりを表す用語。
副腎
  :腎のそばにある臓器で、男性ホルモンであるテストステロンもわずかに産生している。
プローブ
  :超音波検査の時に体に接触させる機械。
膀胱
  :尿を貯めたり、排尿する働きのある、骨盤内の袋状の臓器。
放射線療法
  :高エネルギーのX線を用いてがん細胞を殺す治療。
勃起不全
  :勃起できないこと。
ホルモン療法
  :テストステロンを減少させたり妨害することにより前立腺がんの増殖を抑える治療。
良性腫瘍
  :がんではない腫瘍。
リンパ節
  :血管に沿って散在する小豆用のリンパ系の構造物。リンパ節ではリンパ系を通ってきた細菌やがん細胞をリンパ球が捉える。


BACK