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副腎腫瘍

更新日:2018/04/26、文責:菊地 央

1.副腎について

ヒトの副腎は、左右の腎臓の上端に帽子が乗るように隣接して存在しています。表面全体を覆う被膜の下に、副腎皮質があり、中央部付近にある暗赤色の層が副腎髄質です。副腎皮質からは、多種のステロイドホルモンが分泌されます。副腎皮質ホルモンは、その機能から大きく3つに分類され、体内での糖の蓄積と利用を制御する糖質コルチコイド(コルチゾールなど)、無機イオンなどの電解質バランスを調節する鉱質コルチコイド(アルドステロン)、そして生殖機能に関与する性ホルモンが分泌されます。副腎髄質からは、カテラミンであるアドレナリン、ノルアドレナリンが分泌され、体のストレス反応などの調節を行っています。

図版

東京女子医科大学 高血圧・内分泌内科ホームページより改変

2.副腎腫瘍

副腎腫瘍とは

副腎に発生する腫瘍を副腎腫瘍といい、ほとんどが良性ですが稀に悪性腫瘍が発生することもあります。良性腫瘍のうち身体に影響しない腫瘍(ホルモン非産生腫瘍)が大半を占め、治療の必要はありません。副腎腫瘍のうち数種類は、ホルモンを過剰分泌する傾向(ホルモン産生性腫瘍)があり、分泌するホルモンの種類によりクッシング症候群、サブクリニカルクッシング症候群、原発性アルドステロン症、褐色細胞腫といった病気を引き起こし、手術治療を要することがあります。副腎の悪性腫瘍には神経芽腫、副腎皮質癌、一部の褐色細胞腫などがあり、手術治療や抗癌剤治療などの集学的治療が行われます。

クッシング症候群とは

コルチゾールを過剰につくる副腎の腫瘍が原因です。顔にニキビができて丸くなり、お腹に脂肪がつきます。手足は細く筋肉が弱くなります。皮膚が薄くなって、青あざができやすくなります。高血圧、糖尿病、骨粗鬆症にもなります。また、コルチゾールの自律性分泌を認めるが、クッシング症候群に特徴的な身体所見を欠く病態をサブクリニカルクッシング症候群といいます。どちらの病態でも治療として腹腔鏡での腫瘍摘出を行います。

原発生アルドステロン症とは

血圧の調節をしているアルドステロンが過剰に分泌される病気です。高血圧、血液中のカリウムが低くなるなどの異常が出ます。高血圧患者への本症のスクリーニングが普及してきており、全高血圧症患者の5-10%程度とも推定されています。アルドステロンが過剰になる原因は、左右どちらか一方の副腎の場合(アルドステロンを過剰に産生する副腎腫瘍)と左右両方の副腎の場合があります。腫瘍はほとんどが良性で腹腔鏡手術による摘出で治ります。左右両方の副腎が原因の場合はアルドステロンを抑える薬の服用が必要です。

褐色細胞腫とは

血圧の調節をしているカテコラミンが過剰に分泌される病気です。動悸、顔のほてり、手指の冷感、汗をかくなどの発作症状とともに血圧が急に上昇するのが特徴的な症状です。原因は、副腎やその付近にできるカテコラミンを過剰に産生する腫瘍です。良性の腫瘍は多くの場合手術で摘出すると治ります。約5%は悪性で、骨、肝臓、肺、リンパ節などに転移します。また、頭頸部や腹部の大血管近傍の神経節、骨盤内といった副腎外にも同様の腫瘍が発生することがあり傍神経節腫(パラガングリオーマ)とも呼ばれます。褐色細胞腫の約25%は副腎外発生と言われています。
通常、褐色細胞腫は成人に生じますが、小児期に生じ、遺伝性のケースもあります。また、多発する内分泌疾患に伴うケースやvon Hippel-Lindau病、レックリングハウゼン病という遺伝性疾患に合併するケースがあります。小児の高血圧の1%程度はこの病気によるもので、そのうちの80%は褐色細胞腫で20%が傍神経節腫によるものと言われています。

3.褐色細胞腫、傍神経節腫の診断

  • 血液中、尿中のカテコラミン、代謝産物の測定を行います。
  • 腫瘍の部位を確認するためにCT, MRI, 副腎髄質シンチグラフィ(MIBGシンチグラフィ)、PET検査等の画像診断を行います。

4.副腎腫瘍の手術治療

副腎は体の最も奥に位置するため、開腹手術が中心だった当時は大きな創をつくって術野を展開し腫瘍を摘出する必要がありました。近年では、腹腔鏡下手術が一般的となり通常の副腎腫瘍であれば、カメラ、鉗子、はさみなどを通す筒を腹部に通して腫瘍を摘出することが可能となっています。1-2cmの傷を3-4箇所つくるだけであり、傷の痛みも軽減され、術後の回復もはやく早期の退院が可能となっております。

褐色細胞腫、傍神経節腫の治療

他の副腎腫瘍と違い、これらの腫瘍は手術操作による刺激で大量のカテコラミンを放出してしまうと血圧、心拍の急激な上昇をもたらすことがあります。腫瘍を強く圧排しないように細心の注意を払いながら手術を行う必要があり、また血圧、脈拍といった循環動態の変動に対応できるように麻酔管理、集中治療室のバックアップ体制が整った設備であることが肝要となります。北海道大学病院ではこれらの腫瘍にたいして、腹腔鏡下での手術を数多く行っており、大きなサイズの腫瘍にたいしても腹腔鏡での手術を行っております。

5.褐色細胞腫、傍神経節腫の治療後

褐色細胞腫、傍神経節腫は完全に摘除した場合にも約15%が再発すると報告されています。そのため治療後も長期間にわたり、血液、尿検査でカテコラミンの再上昇がないか、画像検査で腫瘍の再発がないか定期的な検査を要します。また、褐色細胞腫は摘除した腫瘍の検査で良性か悪性かの判断は難しい腫瘍であり、定期的な検査で転移病変の出現がないか確認を要します。

6.悪性褐色細胞腫

悪性褐色細胞腫とは

転移を有する褐色細胞腫を悪性褐色細胞腫といい、悪性褐色細胞腫の約35%は最初の診断時に転移を認めます。残りは、褐色細胞腫の治療後の経過をみている間に転移病変が出現し悪性と診断されます。大半は褐色細胞腫の診断時から5年以内に転移病変が出現しますが、15年以上経過してから転移病変が出現した症例の報告もあります。

悪性褐色細胞腫の治療

可能な限り、転移部位も含め腫瘍の摘除を行います。手術での摘除が不可能な腫瘍が残存する場合に、I-131-MIBGを用いた内照射療法を行います。放射性ヨウ素(I)131を標識としたメタヨードベンジルグアニジン(MIBG)という薬剤を、点滴静注によって体内に入れ、体の中から放射線治療を行います。体内に入ったI-131-MIBGが、体内のすべての腫瘍細胞に集積し、ベータ線という放射線を放出して腫瘍を死滅させる、という仕組みです。北海道大学病院では核医学診療科にてこの治療を行っております。
MIBG治療が困難な症例にはシクロフォスファミド、ビンクリスチン、ダカルバジンによる抗癌剤治療(CVD療法)を行います。

7.褐色細胞腫、傍神経節腫の遺伝カウンセリングおよび遺伝子検査

褐色細胞腫、傍神経節腫と診断された患者さんは、その病気が遺伝性である可能性が25%と高いため、診断された患者さんは遺伝子検査を検討するように提案されています。特に、①遺伝性褐色細胞腫を示唆する病歴または家族歴を有する②両側性または多発腫瘍を有する③40歳前で診断される④傍神経節腫、といった場合には遺伝性である確率が高くなり、遺伝子検査が推奨されます。
遺伝的症候群の早期発見により、他の関連腫瘍の早期スクリーニングおよびリスクを有する家族の識別が可能になります。さらに、一部の遺伝的症候群患者は、悪性、または再発性の病変が生じる可能性が非常に高く、そのような場合に重点的なフォローアップが可能となります。