前立腺肥大症

前立腺は、膀胱出口部の尿道周囲を囲むように存在しますが、前立腺肥大症では前立腺上皮細胞と間質細胞の増殖からなる前立腺肥大結節が尿道を圧迫することにより下部尿路が閉塞されて下部尿路に関係した症状が生じ日常生活に大きな支障をきたします。
前立腺肥大症は、高齢男性に最もよくみられる排尿障害の原因となる前立腺の良性腫瘍で加齢とともに増加します。前立腺肥大症は組織学的に60歳の男性では50%以上に、85歳までに約90%に認められ、その約1/4に臨床症状が出現します。本邦では55歳以上の男性の5人に1人が前立腺肥大症に罹患していると報告されています。一般的にその頻度は白人よりも黒人に多く、アジア人は白人よりも少ないが、欧米に移住したアジア人に前立腺肥大症の頻度が高くなることから、環境因子も影響を及ぼしていることが示唆されています。
下部尿路症状とは、尿の貯留や排出に関係する症状を意味する用語であるが、主に尿の貯留に関係した蓄尿症状、尿の排出に関係した排尿症状、排尿後尿滴下などの排尿後症状に分類されます。

前立腺肥大症の症状

以下の様な症状が主に挙げられます。

  • 排尿症状:尿勢低下、尿線分割・尿線散乱、尿線途絶、排尿遅延、腹圧排尿、終末滴下
  • 蓄尿症状:昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、尿失禁、膀胱知覚の変化
  • 排尿後症状:残尿感、排尿後尿滴下

進行例では

排尿の障害が次第に大きくなると、最終的には急性の尿閉(尿が出なくなること)となり、一時的にカテーテル挿入を要することがあります。さらに症状が進行し慢性的な尿閉状態となり膀胱の過剰伸展が激しい場合は膀胱機能が最終的に回復できない症例もあります。慢性的な尿閉状態が続くと、

  1. 膀胱結石の形成
  2. 腎機能の低下
  3. 膀胱憩室の形成
  4. 繰り返す尿路感染症

などをきたすことがあります。

診断

問診、質問用紙によるスクリーニング

問診などで下部尿路症状の異常が示唆された場合には、IPSS/QOLスコアやOABSSを用いで自覚症状の評価を行います。
(1)IPSS (前立腺症状スコア:international Prostate Symptom Score) /QOLスコア
前立腺肥大症における下部尿路症状を定量的に評価することができ、重症度診断の評価項目として、治療方針の決定や治療効果の評価に利用されています。

IPSS (前立腺症状スコア:international Prostate Symptom Score) /QOLスコア

(2)OABSS(過活動膀胱症状スコア:overactive bladder symptom score)

前立腺肥大症患者の40~60%に過活動膀胱(過活動膀胱の項目を参照してください)が合併し、薬物療法などにより閉塞を解除した場合、約70%の患者において過活動膀胱の症状は消失します。

OABSS(過活動膀胱症状スコア:overactive bladder symptom score)

直腸診

前立腺のサイズ(正常はクルミ大)、硬度(正常は弾性がある)、解剖学的状態(正常は表面平滑、左右対称であり中心溝が触れる)について有用な情報が得られます。直腸診で前立腺が左右非対称で、石様に硬くなった腫瘤が触れる場合には、前立腺癌を疑います。

検尿

前立腺肥大症と同じような症状を呈する尿路感染症や膀胱癌の鑑別に役立ちます。

血液検査

腎機能、前立腺癌のマーカー(PSA)、など

超音波による前立腺体積

詳細な前立腺容積の測定、膀胱、前立腺の形態の観察を行うことができます。

排尿日誌

排尿日誌では、排尿時刻、排尿量、失禁量を記録することによって、症状の頻度、程度、生活への影響などの正確な評価が可能です。

排尿日誌

尿流量測定/残尿測定

尿流量測定は、尿が十分にたまった状態で専用尿器に排尿するだけの検査であるが、排尿障害を有する患者において排尿状態の客観的、定量的な評価に有用な非侵襲的検査です。残尿測定は、排尿効率の評価に用いられ、重症度の判定と治療経過の評価に用いられています。

Pressure flow study(尿流・排尿筋圧同時測定)

侵襲的ですが、直腸と膀胱の細いカテーテルを挿入し、それぞれの圧と尿流を同時に測定します。下部尿路閉塞の有無を評価することができます。

前立腺生検

直腸診、PSA値(正常:4.0ng/ml以下)から前立腺癌を疑う場合には、前立腺生検を行います。

治療

それほど重症でなければ、まず薬物療法を行って、それでも症状の改善が思うように得られない場合に限って手術やその他の治療法を考えるのが一般的です。薬の効果は症状が軽いほど高く、治療せずに放置して悪化すると、薬物療法では症状が改善されない場合もあります。

薬物療法

(1)α1受容体遮断薬
前立腺平滑筋、膀胱頚部に存在するα1-アドレナリン受容体をブロックし、前立腺平滑筋、膀胱頚部を弛緩させることによって、尿道抵抗を低下させ、排尿障害を改善させます。

(2)5α還元酵素阻害薬
前立腺を縮小させる効果があります。

(3)その他
抗コリン薬、β3作動薬、など

手術療法

尿道よりカメラ挿入して、肥大した前立腺で圧迫された前立腺部尿道を含めて肥大組織の一部を切除することによって下部尿路の閉塞を解除します。
レーザーを用いた前立腺核出術、前立腺温熱療法、などの治療を行うこともあります。