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体腔鏡下腎手術

腎疾患に対する体腔鏡下(腹腔鏡下)手術

はじめに

体腔鏡下手術で最も普及しているのは、胆石に対する胆嚢摘出術ですが、世界で最初の体腔鏡による腹部実質臓器に対する手術は、1990年米国の泌尿器科医Claymanらによって行われた腎摘出術です。この歴史的な手術に刺激を受けて日本国内の泌尿器科施設でも体腔鏡手術が開始され、当科においても1991年に第一例目の手術が行われました。当初、悪性腫瘍手術としての安全性に対する懸念が強いことや胆石のように体腔鏡手術導入に適した疾患が泌尿 器科領域には少ないことが障害となり体腔鏡手術は容易に普及しませんでしたが、10年を経た現在、症例の蓄積、手術器具・技術の進歩、さらに根治的前立腺摘出術の確立という革命的手術の出現により、泌尿器科においても「2000年代は体腔鏡の時代」になりつつあります。

良性疾患に対する腎摘出術

萎縮腎などの良性腎疾患に対する腎摘出術は、副腎摘出術と並んで比較的早期に有効性が認められ、1996年には保険に収載されました。小児の尿管性尿失禁・高血圧を伴う低形成腎に対しても非常に有効であり安全性の高い手術です。これらの疾患では摘出物が小さくトロカー(体内に鉗子を出し入れするための筒型の通路)から取り出すのに適しています。当科では経腹膜的に3本のトロカーと必要に応じて2mm径の細いトロカーを追加して女児7例に手術を施行 しました。時間は165-265分、出血はごくわずかでした。2例が術当日に鎮痛剤を使用したに過ぎず、全例周術期の合併症なく3-8日で退院しました。2mmの創は痕跡程度となり、患児・ご家族ともに満足されているようです。発熱を繰り返す水腎症、腎移植患者さんの高血圧の原因となる萎縮腎も体腔鏡手術の適応となります。

腎腫瘍に対する根治的腎摘出術

前述のClaymanらは腎腫瘍ごと腎を破砕して取り出しましたが、悪性腫瘍を破砕することは一般には容易に受け入れられませんでした。また、同時期に膀胱癌のリンパ廓清術後のトロカー部皮下への再発や、気腹(術中に体腔内に炭酸ガスを入れる操作)によってがん細胞の増殖が刺激されることが報告されたことから、手術以外にあまり有効な治療がない腎細胞癌は当初体腔鏡手術の適応外とされていました。しかし、約10年間の症例の蓄積によって、体腔鏡で 治療した腎細胞癌の長期予後、遠隔転移率は開腹術と同等であることが徐々に認められ、懸念されていたトロカー部再発もこれまで世界で一例報告されたに過ぎません。これらのことから体腔鏡手術は腎細胞癌に対する標準手術のひとつとして認知されるようになりました。
腫瘍学の観点からの問題はほぼ解決されましたが、術式については開腹術同様多くの方法があります。腎臓の位置する後腹膜の展開法としてA)腹膜腔経由法とB)直接展開法の2法、腎を取り出すために、1)腎を破砕する、2)創を広げる、3)当初から手を入れて行う方法(Hand-assisted Laparoscopic Surgery: HALS)の3法があります。当科では、(A)-(1)の方法を主体に1997年以降21例に根治的腎摘出術を施行しました。初期5例の平均手術時間は386分と開腹40症例の216分の約2倍でしたが、最近の5例では182分にまで短縮されました。良好な拡大視野のもと細かな剥離が可能なため平均出血量は180mlと開腹の280mlに比して少なくおさえられています。術後は創痛が軽く、腸管合併症が少ないため、平均術後入院日数は開腹の21.2日に対して9.5日と半分になりました。米国では術後在院期間が時間単位で検討される程です。2002年3月末には6才女児の稀な腎細胞癌を体腔鏡手術で摘出する機会がありましたが、患児は合併症なく5日後に退院し幸い入学式に間に合いました。
現時点での当科での体腔鏡下根治的腎悪性腫瘍手術の適応は、「周囲臓器浸潤、大血管浸潤のない径7cm以下の実質性腫瘍」です。今後はさらに大きな腫瘍や進行性腫瘍も適応に含まれてくると考えています。

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図1:体腔鏡下根治的腎全摘出術の術創

腎部分切除術

2002年世界Endourology学会での最もホットな話題は腎部分切除術の術式でした。CTやエコーなどの近年の画像診断機器の進歩によって無症候で小径のうちに発見される腎腫瘍が増えました。当科においてもT1a腎腫瘍(腫瘍径4cm以下)の割合は1985年22%に対して1999年には76%に増加しました。T1a腫瘍では腎全体を摘出する根治的腎全摘出術と腫瘍部分だけを切除する部分切除術の長期生命予後はいずれも90-100%と差を認めないこと、画像診断を駆使しても手術前に悪性と診断した中に5%程度の良性腫瘍が含まれることなどの理由により対側腎が正常の症例であっても部分切除術を行う機会が増えました。また、ほぼ全例が無症候であることから、術後の合併症を最小限にして社会復帰を早めることは非常に重要と考えられます。しかし、血流の豊富な腎実質の体腔鏡下切除は技術的に容易ではありません。開腹術では血流を遮断して行うのが一般的ですが、体腔鏡手術では腎実質の縫合と腔内冷却が容易ではないことから、電気メス・マイクロ波凝固装置などで腫瘍周辺の実質を凝固止血して部分切除を行うのが主流です。当科では1998年マイクロ波凝固装置を導入しこれまでに22例に体腔鏡下腎部分切除術を行いました。これまでのところ平均手術時間279分、出血量419ml、術後在院日数16.0日であり、開腹手術38例における手術時間216分、出血量193ml、在院日数19.8日に比して明らかに非侵襲的であるとはまだ言えません。手術の難易度が腫瘍の部位と大きさによって左右されるために全摘出術よりも習熟に時間を要します。術後合併症として出血はありませんでしたが初期2例に特異な尿管狭窄が生じました。以後は温度モニターを行い腎盂を冷却しつつ凝固することで同様の合併症は皆無となりましたが、腎洞に近い腫瘍は冷却によっても合併症の危険があるためこの手術の適応とはしていません。現時点での当科での体腔鏡下腎部分切除術の適応は、「径4cm以下で腎洞から1cm以上離れて位置する悪性が疑われる腎腫瘍」です。しかし、体腔鏡用の血管鉗子、腔内での冷却法、簡便な縫合法も次々と開発されており、多くの小径腫瘍を安全に体腔鏡下部分切除できる日も近いと考えています。

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図2:マイクロ波凝固装置による腎腫瘍周囲の凝固

その他

1) 腎尿管全摘出術

上腹部に位置する腎尿管の摘出とともに下腹部に位置する膀胱の部分切除を行うために肋骨弓下から恥骨上に達する40cmにわたる皮膚切開を必要とし、術後の社会復帰の障害となっていましたが、体腔鏡手術ではこれを約6cmと大幅に短縮できます。

2) 腎盂形成術

成人の腎盂尿管移行部狭窄症では70%が狭窄部周囲に異常血管を伴うことから多くの場合、体腔鏡下形成術の適応となります。このような形成を主体とする手術では、近年発達しているロボット(daVinci)によって開腹手術を上回る精度の高い形成縫合が可能であることが示されています。

3) 腎移植ドナー腎摘出術

健常人に対する手術という特殊性のため、侵襲を最小限にする努力が最も要求されています。献腎移植の多い米国でも最近はドナーの供給不足を解消するため体腔鏡手術が注目されています。動静脈の切断後迅速に腎をそのまま体外に取り出す必要があるために、小切開補助下手術、HALSなどいくつかの変法があります。当科では2001年以後HALSを主体として16例にこの手術を施行しました。これまでのところ、大きな合併症はなく、懸念された温阻血時間は平均6.2(3-13)分であり、移植後の初期腎機能も良好です。

おわりに

10年を経て泌尿器科における体腔鏡手術も黎明期から発展期に入り、大半の開放術式を体腔鏡下に行うことが可能になりました。現時点で標準化された手術は腎摘出術だけですが、その他の手術も安全性と確実性をより高めた標準化がなされ患者のQOL向上に貢献することは疑う余地がありません。体腔鏡は最小侵襲というだけでなく、高精度の手術を行うための手段へと発展しつつあります。そして、われわれ外科医に要求される技術レベルが高くなっていることも 事実と考え、日夜研究、研鑽を積んでいます。

参考文献

1) Clayman RV, Kavoussi LR, Soper NJ, et al. Laparoscopic nephrectomy. N Engl J Med, 324: 1370-71, 1991.

2) 飴田 要,柿崎 秀宏,原林 透,他:小児腹腔鏡下腎摘出術の臨床成績.Jpn.J.Endourol.ESWL,15: 31-35,2002

3) Portis AJ, Yan Y, Landman J, et al. Long-term followup after laparoscopic radical nephrectomy. J Urol 167:1257-1262, 2002.

4) Fentie DD, Barrett PH and Tarahger LA.: Metastastic renal cell cancer after laparoscopic radical nephrectomy: Long-term follow-up. J Endourol, 14: 407,2000.

5) Harabayashi T, Shinohara N, Ameda K, et al. Heat injury by microwave tissue coagulator and its prevention in laparoscopic partial nephrectomy. J Endourol, 16: A151, 2002.

6) Gettman MT, Peschel R, Neururer R, et al.: A Comparison of Laparoscopic Pyeloplasty Performed with the daVinci Robotic System versus Standard Laparoscopic Techniques: Initial Clinical Results. Eur Urol 42:453-8, 2002.

2003/03/26(2003年2月の北海道医報に掲載された文章を承諾の上、改変したものです。)(文責: 原林 透、森田 研)