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ロボット支援手術について

ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術について

トレーニング風景です。術者は3次元で術野を見ることが出来ます。拡大視野と、手元のコントローラで、微細な手術を行うことが可能となります。実際の手術では操作する術者は一名です。
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この文書は、転移のない前立腺癌の患者さんに対して、根治(病気を治す)目的に行われる手術である、ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術の簡単な説明文書です。

近年の、内視鏡(医療用のカメラです、胃カメラなどが代表です)の進歩は、目を見張るものがあります。また、これらを応用した腹腔鏡手術の発達も目覚ましいものがあります。ポートと呼ばれる5-15ミリ径の筒を、3−6本おなかに挿入し、おなかに炭酸ガスを注入することで空間をつくり手術を行います。① 傷がちいさく美容的に優れている、② 拡大した視野で行うことでより安全に手術が可能、③ 炭酸ガスを使うことで出血量が減る、などの大きな利点がありました。私どもの施設でも、これまで190例弱の腹腔鏡下前立腺全摘除術を施行してきました。初期の症例で輸血を要した症例がありますが、現在は輸血を要することは極めて稀です。また全期間において、手術死亡例はありません。

ただし、腹腔鏡手術にも、欠点があります。2次元の画像(テレビモニター)を見ながらの手術ですので、奥行きは正確にはわかりません。また”縫う”,”糸を縛る“といった手技も、習得に時間を要します。これらの欠点を補いつつ、より複雑で細やかな手術手技を可能とし、より安全かつ侵襲の少ない手術が可能となる可能性をもたらすのがロボット支援手術です。私どもの施設でも、このロボット支援技術を2013年6月から導入します。

具体的には、ダ・ヴィンチ手術システムとよばれる機器を使用します。欧米を中心にすでに医療用具として認可され、1997年より臨床応用されています。日本においても急速に普及しつつあり、2012年4月に‘前立腺癌に対するロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺全摘除術’が保険適応になりました。ロボット手術支援腹腔鏡下根治的前立腺摘除術は、腹腔鏡下根治的前立腺摘除術をロボット支援下に行うものですが、従来の手術法に比べてより繊細で、正確な手術を行うことができ、根治性、尿禁制(尿失禁がない状態)を含む機能温存においてより優れていると考えられています。

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左は通常の腹腔鏡手術用のハサミ、右はロボット手術用のハサミです。関節のおかげでより微細な手技が可能になりました。

手元のコントローラの動きが、機器の先端に伝わり、微細な手技が再現されます。(右写真)

真ん中がロボットアームです。左の男性が操作しています。(下写真)

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ロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺全摘除術の手術方法

限局性前立腺癌に対する手術で、前立腺と精嚢の摘除、尿道と膀胱を吻合するします。

手順・注意点

  • 腹部にポートを設置(切開穴は5-12mmで、全部で6カ所)
  • 前立腺を剥離・切除したあと、膀胱と尿道を吻合します。
  • 骨盤のリンパ節郭清を行います。
  • 手術時間は約3-6時間を予定しています。
  • 術中判断により通常の腹腔鏡手術あるいは開腹術へと変更する場合があります。

術者は―

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拡大鏡下の解放手術を行っているイメージ
ロボットにより、普通の手の動きが腹腔鏡の鉗子に伝えられスムーズに動くように変換されています。

患者さんは―

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腹腔鏡手術が行われている
従って、術中・術後管理は腹腔鏡手術に準ずるものとなります。

本手術の危険性(根治的前立腺摘除術全般に共通する)

1)手術中・手術直後

予想以上の出血があった場合には、輸血が必要になることもあります。輸血による合併症が起ることもあります。
周囲臓器損傷:3~4%程度の頻度で直腸、尿管を損傷することがあります。通常手術中に修復できますが、直腸の損傷ではごくまれに一時的な人工肛門が必要になることがあります。開腹手術による操作が必要になる可能性があります。
感染症:通常手術後2~3日は発熱します。発熱が持続する場合でも一般的には抗菌薬の投与で軽快します。

2)手術後

尿失禁:従来の手術では、90%以上の方が尿もれ(尿失禁)を経験します。しかしおよそ9割の方は、術後1年以内に改善します。

性機能障害:原則として両側の勃起神経は前立腺と一緒に切除しますが、癌の浸潤が限られ患者さんの希望がある場合、勃起神経の温存を目指すことも可能です。
尿道狭窄:膀胱と尿道の吻合部が狭くなり排尿困難感が強くなることがあります。排尿困難が高度な場合には内視鏡的に広げることもあります。
そけいヘルニア:腸が皮膚のすぐ下に出てくる状態で、手術が必要になることがあります。

3)その他 (すべての手術に関係する一般的合併症)

術後の創感染:傷の縫い直しが必要になることもあります。開放手術より腹腔鏡手術では起こりにくいと考えられます。
深部静脈血栓症による肺梗塞:おもに足の血管の中で血液が固まり、これが血管の中を流れて肺の血管を閉塞する、重大な合併症です。この合併症を予防するために、手術中には下肢に弾力性のある包帯を巻きますが、術後できるだけ早く歩行していただくことが大切です。
皮下気腫:内視鏡操作の合併症です。二酸化炭素が皮膚の下にたまって不快に感じることがありますが、数日で自然に吸収されます。
ガス塞栓:二酸化炭素が血管の中に入って肺に血液が通らなくなるもので、まれではありますが危険な合併症です。
術後の腹膜炎:小さな腸の傷に気がつかなかった場合、後で腹膜炎となり、再手術が必要になる場合があります。

術後の処置・経過観察

手術後の経過観察は、従来の開創手術後と全く同様です。術後特別な合併症がなければ、約7日間で尿道カテーテルを抜去します。排尿状態に問題なければカテーテル抜去後数日で退院していただきます。

退院後の術後経過観察としては、従来の開創あるいは腹腔鏡下根治的前立腺摘除術と全く同様に、排尿状態や性機能の評価、血清PSA等を定期的に行います。

ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術の初期経験

手術術式

図版
  1. ポート作成
  2. 30度の頭低位
  3. レチウス腔の展開
  4. 骨盤底筋膜の切開とDVC bunching
  5. 膀胱頚部の離断と精囊腺の剥離
  6. Lateral pedicleの処理
    (神経非温存側はバイクランプによる)
  7. DVCと尿道の離断
  8. posterior reconstruction
  9. 膀胱尿道吻合
  10. anterior reconstruction
  11. 閉鎖リンパ節郭清

患者背景

期間 2013.6.10~10.28
患者数 17
年齢 53~73 (中央値70)
BMI 19.5~ 29.2 (中央値24.4)
術前PSA 3.75 ~ 31.95 (中央値6.95)
Gleason score(生検)
GS≦6 / 7 / 8
8 / 5 / 4
術前病期
T1 / T2 /T3
12 / 4 / 1
D’Amico risk分類
Low/Inter/High
7 / 5 / 5

手術成績

総手術時間 247-350分 (中央値288分)
コンソール時間 170-310分 (中央値224分)

セットアップ時間(median)
 1-10例 / 11-17例:11.5分 / 10分
ドレーピング時間(median)
 1-10例 / 11-17例:25分 / 20分
神経温存 両側 1例、片側 7例、なし 9例
輸血例 なし

病理結果

切除重量 32-90 gr (median 46)
病理病期 pT2a:2
pT2c:6
pT3a:1
pT3b:2
断端陽性率 pT2:0/8 (0%)
pT3:2/3 (67%)

術後経過

術後在院日数 8-17 days (median 11)
退院時1日尿失禁量 0-750 ml (median 140)

10ml未満:12例中4例

尿失禁率:0-58% (median 11)
術後1M パッドなし 12例中7例 (58%) (Safety pad 1枚を含む)
術後1M PSA値(<0.1) 12例中11例

患者の皆様へ

H25 6月より、ロボット支援前立腺全摘除術を開始しました。
トレーニング体制の確立と、初期導入は安全に実施できています。