停留精巣

停留精巣

 精巣は、お腹の中で発生するため、胎児の頃には腹腔内に存在します。妊娠の経過とともに下降して、鼡径管という筋肉の隙間を通り、妊娠30週くらいで陰嚢内に降りてきます。この生理的な下降経路の途中で精巣が留まってしまう状態を停留精巣といいます。停留精巣は稀な疾患ではなく、出生時体重が2500g以上の成熟児の約3%、さらに2500g未満の低出生体重児では約20%、37週未満で出生したお子さんにも20-30%と高頻度に認められます。一方出生後も、生後2-3ヶ月にみられるテストステロンなどのホルモンの生理的な上昇に関連し、生後3ヶ月までに60-70%が陰嚢まで自然下降します。

症状

 停留精巣では、お風呂に入っている時など、温かい場所でリラックスした状態でも陰嚢の中に精巣を触ることが出来ません。触診所見から、触知精巣と非触知精巣の2つに大きく分けられます。

1. 触知精巣

 触診で鼡径部や陰嚢上部、会陰部などに精巣が触れる場合を言います。

2. 非触知精巣

 触診で精巣が触れない場合を言います。停留精巣の約20%が非触知精巣で、腹腔内にある場合や腹腔内と鼡径管を行ったり来たりしている場合の他、何らかの原因で精巣が消滅した消失精巣、もともと精巣が形成されていない精巣無発生が含まれます。

※. 移動精巣(遊走精巣)

 普段精巣が陰嚢内に触れなくても、リラックスしている時には陰嚢内に触ることが出来る状態を言います。移動精巣は必ずしも治療は必要ではありません。

問題点

 停留精巣には問題点がいくつかあります。

1. 不妊症

 陰嚢皮膚には数多くの皺があり、それらがラジエーターのような働きをすることによって温度を下げる効果があります。陰嚢外に精巣がある場合、陰嚢内に比べて精巣が高温環境におかれるために、精子を作る細胞が少しずつ失われていきます。停留精巣を放置すると、正常の精子形成を行うことが出来ず乏精子症や無精子症となる可能性が高くなります。一方、早期に治療を行った場合には、精液所見に改善が見られたとの報告があります。

2. 悪性腫瘍

 停留精巣では、通常の精巣に比べて精巣腫瘍の発生率が数倍高いと言われています。停留精巣でなぜ腫瘍が生じるかはまだ不明ですが、思春期前に精巣を陰嚢内に固定した方が精巣腫瘍になる危険性が減少するとの報告があり、手術は悪性化の予防に有用であると考えられます。また、精巣腫瘍の初期症状は精巣が大きくなることですが、通常痛みを伴うことはないため、精巣が陰嚢内にない場合、発見が遅れる可能性があります。

3. 鼡径ヘルニア・陰嚢水腫

 精巣が陰嚢内に下降できない場合、腹膜と連続した鞘状突起が閉鎖せずに開いたままとなるため、腹腔内容(腸管など)が鼡径部に脱出してくることが容易となり、鼡径ヘルニアを高率に合併します。

4. 精索捻転

 停留精巣では精巣が陰嚢に固定されていないために精索軸捻転が起こりやすいと言われています。

5. 心理的問題

 把握しづらいですが、心理的な面にも影響を与えると考えられています。

治療&ケア

治療

 大きく分けて手術療法とホルモン療法がありますが、一般的には手術療法が主流です。

(1)手術療法
 停留精巣に対する手術の時期は、出生後の自然下降の可能性と停留精巣による障害の発生を考え合わせると、1才前後が望ましいと考えられています。手術では、精巣を触る場合には、鼡径部(足の付け根あたり)の皮膚を切開して精巣を探し出し、陰嚢に作った皮下ポケットに固定してきます。精巣が触らない場合には腹腔鏡でお腹の中を探し、見つかった場合には陰嚢へ固定します。腹腔内に精巣があり、1回で陰嚢まで降ろすのが難しい場合には、手術を2回に分けて行うことがあります。残念ながらある程度の大きさの精巣が見つからず瘢痕組織のみの場合にはそれを摘出してきます。

(2)ホルモン療法
 男性ホルモンであるテストステロンの産生を刺激することによって、精巣下降を促進する治療です。有効性は停留精巣全体の約20%未満ですが、陰嚢の近くに位置する停留精巣では有効性が高くなります。全身投与のため、体重増加や陰茎の増大・陰毛発育などの副作用や精子を作る細胞に影響を与える可能性が指摘されています。また最大約1/4の症例で再拳上の報告があるため、当科では行っておりません。

ケア

 治療後も内分泌的な問題、不妊症、腫瘍発生など、長期的な経過観察が必要です。精巣腫瘍の発生は成人期が多いため、ご家族に長期にわたる経過観察の重要性を説明し、本人にはセルフチェック(精巣の腫大がないか、硬い部分はないか)をお勧めします。