停留精巣

病態

精巣は、胎生期には腹腔内に存在し、妊娠週数の経過とともに下降して、本来鼠径管を通って妊娠30週くらいには陰嚢内に降りてきます。この生理的な下降経路の途中で精巣が留まってしまう状態を停留精巣とよびます。
停留精巣は稀な疾患ではなく、出生時体重が2500g以上の成熟児で約3%であるのに対し、2500g未満の低出生体重児では約20%と高頻度に見られます。一方、出生後も1歳まで(特に生後3ヶ月まで)の間に60-70%が陰嚢内まで自然下降します。これには、生後2-3ヶ月にみられるLH、テストステロンの生理的な上昇が関連していると考えられています。

停留精巣を放置した場合、以下のような障害が発生する可能性があります。

1.不妊症

陰嚢内ではなくお腹の中にある場合は、陰嚢内にある場合に比べて精巣が2-3度高温環境におかれるために、精子を作る細胞が少しずつ失われていきます。片側、両側に限らず停留精巣を放置した場合、精子の形成がほとんどの症例で認められず、乏精子症や無精子症となる可能性が高くなります。その一方で、早期に治療を行った場合には、これらの所見が改善するという報告があります。

2.悪性化

停留精巣では、停留精巣でない精巣に比べて精巣腫瘍の発生率が数倍高いといわれています。現時点では、精巣固定術によって、腫瘍の発生率を減少できるかという点においては議論のあるところですが、最近、思春期前に精巣固定術を行ったほうが精巣腫瘍になる危険性が減少するという大規模な報告がありましたので、精巣固定術は悪性化の予防に有用であると考えられます。

3.鼠径ヘルニア

精巣が陰嚢内に下降できないと、鞘状突起が開口したままとなるために、高率に鼠径ヘルニアが合併します。

4.精索軸捻転

停留精巣では、精巣が陰嚢に固定されていないために、精索軸捻転が起こりやすいといわれています。

5.心理的問題

心理的な面にも影響を与えると考えられています。

症状

停留精巣では、お風呂に入っているときなど、暖かい場所でリラックスしているときでも陰嚢内に精巣を触ることができません。触診所見から大きく分けて、触知精巣と非触知精巣に分けることができます。

1.触知精巣

触診で、鼠径部、陰嚢上部、会陰部などに精巣が触れる場合を言います。

2.非触知精巣

触診で精巣を触れる事ができない場合を言います。停留精巣の約20%は非触知精巣で、腹腔内精巣、鼠径管内精巣、消失精巣(何らかの原因で、精巣が消滅した状態)、精巣無発生が含まれます。

※ 移動精巣

普段陰嚢内に触れなくても、リラックスしているときには陰嚢内に触ることができる場合を言います。移動精巣は、必ずしも治療は必要ではありません。

治療&ケア

治療

大きく分けて手術治療とホルモン療法に分けられます。一般的には前者の方が治療の主流です。

(1)手術治療

手術停留精巣の手術時期は、停留精巣の自然下降の可能性と停留精巣による障害を考え合わせると、1歳前後が望ましいと考えます。具体的には、以下のように治療を進めます。

  • 鼠径部(脚の付け根の上あたり)の皮膚を切開し、鼠径管を開放して精巣を探します。
  • 精巣があった場合は、陰嚢内に固定します。
  • 瘢痕状の組織の場合は、残念ながら摘出してしまうことがあります。
  • 精巣がない場合は、腹腔鏡でお腹の中を探し、精巣が見つかった場合は、陰嚢内まで降ろして固定します。

(2)ホルモン療法

テストステロン産生を刺激することによって、精巣下降を促進する治療です。一般的には、HCGが使用されます。

ケア

停留精巣の治療後も、内分泌的な問題、不妊、腫瘍発生など、長期的な経過観察が必要です。そのため、治療時にはご家族に長期にわたる経過観察の重要性を十分に説明する必要があります。