教室紹介
就任の御挨拶

安部 崇重
北海道大学大学院医学研究院腎泌尿器外科学教室
令和7年1月1日付で北海道大学大学院医学研究院腎泌尿器外科学教室・教授を拝命いたしました。ここに謹んで新任の御挨拶を申し上げます。初代 辻一郎教授、第二代 小柳知彦教授、第三代 野々村克也教授、第四代 篠原信雄教授によって引き継がれて来ました教室の伝統、また長年の諸先輩方のご努力により築かれた教室への信頼を第5代教授として引き継がせていただくことを大変光栄に存じます。
私の出身は愛知県で、大学から北海道でお世話になっております。平成7年に北海道大学医学部を卒業後、北海道大学医学部泌尿器科学講座に入局をいたしました。当時教室を主宰しておられた小柳知彦教授に臨床医・泌尿器科医師としての姿勢をご教授いただきました。患者さんを中心に考えた医療、臨床から生まれる疑問を基礎・臨床研究で解明していく姿勢、その結果を世界へ発信していく大切さなど、医師として生きていく上での基本を教えていただきました。当時より北海道大学泌尿器科には、現在も脈々と引き継がれる小児泌尿器科、神経排尿整理、泌尿器腫瘍、腎移植血管外科の4つの大きな柱がありました。例えば先天性尿路奇形を有する患者さんへ尿路変向術施行後に腎臓移植を実施、その後の排尿管理を含めた長期フォローアップを行っていく症例など、各グループの垣根を越えて知恵を絞り、総力戦で患者さんの治療にあたる先輩方の姿に大変感銘を受けたことを覚えております。医師2年目には帯広厚生病院に異動し、そこでは坂下茂夫先生のご指導の下、前立腺癌に対する開腹での前立腺全摘除術、膀胱癌に対する開腹膀胱全摘除術・腸管を利用した代用膀胱造設術など沢山の手術に参加させていただきました。その後は網走厚生病院、小樽市立病院、市立札幌病院と研修を重ねていくなかで、自分のサブスペシャリティとして、泌尿器腫瘍と腹腔鏡手術を含む低侵襲手術を選択いたしました。
2001年4月から2005年3月の間は、大学院に入学し基礎研究に従事しております。北海道大学遺伝子病制御研究所 癌関連遺伝子分野 守内哲也教授・多田光宏准教授にご指導いただき、cDNA arrayを用いて腎臓癌の腫瘍学的特徴を反映する遺伝子群の同定に関する研究に従事しました。その他、膀胱癌の臨床検体を重症免疫不全マウスであるSCIDマウスの背部に移植し、今でいうPatient-derived xenograft(PDX)モデルの作製の研究も行い、この研究が自分の学位論文となりました。
大学院卒業後は、北海道大学病院で勤務し野々村克也教授の指導の下、腹腔鏡手術・開腹手術・分子標的薬剤を中心とする新規薬物療法など泌尿器癌治療を中心に臨床経験を積ませていただきました。その他、道内関連病院の先生方のご協力により、尿路上皮癌に対する手術療法、薬物療法の多施設後ろ向き研究を複数まとめさせていただきました。また、2013年6月には北海道大学病院でのロボット手術の第一例目が実施されており、その導入から関わらせていただきました。当科では現在までに前立腺癌・腎癌・膀胱癌に対して700件以上のロボット手術を実施しております。2024年8月からはダビンチ2台体制となっております。現在はダビンチサージカルシステム症例見学施設の認定を受け、見学者を受け入れております。今後もロボット支援手術を増やすべく鋭意努力を重ねていく所存です。
先代の篠原信雄教授は、泌尿器腫瘍グループの大先輩でもあり、基礎研究・臨床研究・困難症例の手術など本当に多くのご指導を賜りました。篠原教授の時代に当教室でも学生さんの勧誘を兼ねたハンズオントレーニングを立ち上げ、その企画・運営にも携わりました。その際、英国キングスカレッジロンドンの泌尿器科の研究グループから、VRシミュレーターの評価研究・ロボット支援手術のカリキュラム構築に関する研究など、数多の外科教育研究に関するアウトカムが論文報告されていることを知り、現在まで継続する私の研究分野の1つに出会いました。篠原信雄教授より海外留学のご許可をいただき、幸いにもキングスカレッジロンドン泌尿器科Prokar Dasgupta教授に2016年4月から2017年3月の一年間、研究員として受け入れていただきました。留学中は、ロボット支援手術の見学や助手での参加や、医学生の尿道留置のシミュレーショントレーニングや縫合練習に講師として参加し、その他シミュレーターを使用したラーニングカーブの解析等を行って参りました。その他、尿管鏡の初学者に対して、濃密なシミュレーショントレーニングを行うことで、技術取得の面でのラーニングカーブが促進できるか・合併症発生率を軽減できるかを明らかにすることを目指したランダム化国際共同前向き研究にも関わらせていただきました。ヨーロッパ、アメリカ、アジアの様々な施設が参加、日本からは北大が参加、合計65名の医師が参加しデータが前向きに集積されました。結果はラーニングカーブの短縮は得られませんでしたが、シミュレーション実施群で術中合併症が明らかに少ない結果を観察し、初学者に対する外科シミュレーショントレーニングが技術習得初期の合併症発生のリスクを下げることを報告した世界で初めてのlevel1のエビデンスとなりました。
帰国後は、情報科学研究院システム情報科学部門システム融合学分野教授 近野敦先生とのご縁があり、ブタ臓器を用いた腹腔鏡手術のシミュレーショントレーニングにおいて鉗子動態の測定と熟練者の技術の言語化を目指した研究を開始しております。現在は北海道大学の大きな武器であるカダバートレーニングにもこの測定系を組み込み、シミュレーショントレーニングと医工連携研究を継続中です。
最後に教授としての今後の抱負を述べさせていただきます。臨床に関しては、患者さんにベストの医療を提供すべく全力で精進する覚悟です。患者さんご本人、ご家族への充分な説明のプロセスを大切にしていきたいと思います。地域医療の実践、他医療機関との連携を強化し本邦の医療レベル向上に貢献するリーディングホスピタルを目指します。教室の4本の柱である小児泌尿器科、神経排尿整理、泌尿器腫瘍、腎移植血管外科を守りつつ、新しい分野の開拓にも挑戦したいと考えております。教育・研究面では、学生教育においては例えば医師から患者さんへの説明と同意のプロセスに参加して貰うなど診療参加型実習を推進し、いろいろな経験を積んで貰いたいと考えております。卒後教育ではシミュレーショントレーニングの拡充はもちろん、若い医師の先生方には大学院への入学も勧めたいと考えております。基礎研究・臨床研究に没頭する時間、問題解決に向けて苦労する経験は、医師として独立する上で大変貴重なプロセスであり、多くの若者にSurgeon scientistを目指して欲しいと願っています。そのために、教室員がわくわく出来るような環境を整えることは私に課せられた大きな仕事のひとつです。また、本邦の人口減少社会・高齢化社会・医学部における女性の割合の増加等を考慮しますと、様々な働き方を準備・創造することは喫緊の課題で、All support all.のマインドがとても重要であると考えております。
多くの諸先輩、仲間、後輩への感謝を忘れず、若い先生方の力もお借りしながら、さらなる医療レベルの向上、泌尿器科学の発展のために尽力させていただく覚悟です。今後とも変わらぬご指導、ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
略歴
安部崇重
生年月日
昭和46年3月14日生まれ(54歳)
学歴
- 1995年03月
- 北海道大学医学部卒業
- 2005年03月
- 北海道大学大学院卒業
職歴
- 1995年04月
- 北海道大学医学部泌尿器科学教室入局
- 2006年01月
- 北海道大学大学院腎泌尿器外科 助手
- 2007年04月
- 北海道大学大学院腎泌尿器外科 助教
- 2015年10月
- 北海道大学大学院腎泌尿器外科 講師
- 2016年4月-2017年3月
- King’s College London 客員研究員(シミュレーターを用いた外科教育に関する研究に従事)
- 2017年4月
- 北海道大学病院泌尿器科 講師
- 2019年4月
- 北海道大学大学院腎泌尿器外科 准教授
- 2025年1月
- 北海道大学大学院腎泌尿器外科 教授