教室紹介

篠原名誉教授より

教授退職のご挨拶

Where there’s will, there’s a way!
どんな困難な道でも、それをやり遂げる意志さえあれば必ず道は開かれる

Abraham Lincoln

篠原 信雄

篠原 信雄Nobuo Shinohara

猛威を振るったコロナ禍による医療の混乱も2023年内で概ねおちつきを取り戻し、社会・経済活動もコロナ前の状況にもどっております。我々も2023年10月5-7日にロイトン札幌で、全国から約1600名の参加者を集め、対面で日本泌尿器科学会東部総会を成功裏に終えることができました。参加者数、演題数などはコロナ前より多いぐらいでした。

学会の様子

私も2023年11月24日に65歳の誕生日を迎え、いよいよ2024年3月末日で北海道大学大学院医学研究院 腎泌尿器外科学教室 教授を退職することになりました。2014年10月2日付で、教授に任じられてから、9年半の在任期間となります。その間に、北海道大学医学部の教務委員長を2年、副研究院長(北海道大学教育・研究評議会委員も併任)を2年勤め、大学の運営に携わってきました。また、後半は主に北海道大学病院での業務を行い、血液浄化部部長や北海道大学病院腫瘍センター長に加え、新規に組織された北海道大学病院高難度新規医療技術部門の部門長を長く続けさせていただきました。本当に多くの方のご助力のもと、無事多くの職責を果たせたものと心から感謝しております。

退職にあたり、これまでの自分の歩み(特に泌尿器腫瘍学、腎癌を中心に)について簡単に触れてみたいと思います。

私は1984年に北海道大学医学部60期生として卒業、卒業後小柳知彦教授が主宰されていた泌尿器科に入局しました。同期は、豊田先生、丹田先生、力石先生。平川先生の4名でした。入局時の医療水準(特に泌尿器科腫瘍学)を振り返ると、現在とは隔世の観があります。特に、今考えると驚きですが、北海道大学病院にCTスキャンがなく、CTとるために患者さんを他院にお願いするしかありませんでした。そのような状況ですので、直径4 cm未満の小径腎癌にでくわすことなんかほとんどありませんでした。その後CTスキャンが北海道大学病院に導入されたとき、医療が大きく変わるだろうな、実感しました。また、有転移腎癌患者さんに対する治療もインターフェロンαや低用量IL-2などサイトカイン療法もなく、プロベラ(黄体ホルモン)などを投与して経過を見るしかありませんでした。今考えても、泌尿器腫瘍学黎明期で、診断・治療面で本当にきつい時代だったと思います。

その後、苫小牧市立病院泌尿器科で1985-1987年まで、市立稚内病院泌尿器科で1987-1989年まで働き、地域医療の実際を経験しました。特に個人的には稚内の2年が自分の医師人生に大きな影響を受けました。冬場は猛吹雪のため、大学の先生の応援も受けられませんし、稚内の2年目は医長となり後輩の山下哲史先生と働くということで、結局自分で勉強し、診断・治療方針を決定し責任をもつ必要がありました。そのような中で、泌尿器科病棟の柏谷師長に指導をうけ、医師としての人格が形成されたものと思います。特に、がん患者さん、ご家族へのコミュニケーション技術が鍛えられ、インフォームド・コンセントのみならず、バッドニュースを的確に伝えることができるようになったと思います。

その後、北海道大学医局から、ミシガン大学泌尿器科 H. Barton Grossmann教授のラボへの留学の話をいただきました。ちょうど、私の前に榊原先生が留学されており、かれの帰国後1年間基礎研究を学ぶための留学でした。この時、僕は新婚でしたが、妻の所属先である小児科の許可も出ず、また生活も苦しいこともあり、一人で留学することとなりました。ただ、この時点で英会話もままならず、基礎研究も実験手技も含め全く知らない状況でしたので、本当につらかったです。それでも、免染、ウエスタンブロット等などを習得し、「膀胱がんにおける多剤耐性遺伝子産物P-Glycoprotein発現」の仕事をまとめ、米国留学中にJUの論文(Shinohara N, et al. J Urol 150, 505-509, 1993)を完成することができました。結局1年間の留学で、論文は一編でしたが、帰国後留学中に温めていた研究(多剤耐性遺伝子産物P-Glycoproteinの研究、シスプラチン耐性機構の研究など)を多数実施することができました。その中で、シスプラチン耐性機構の研究(Shinohara N, et al. Int J Cancer 58; 672-677,1994)で1996年に医学博士(北海道大学)を取得することができました。

大学での勤務に関しては、1992年に北海道大学附属病院泌尿器科の助手、1999年講師、2007年に助教授となりました。その間、腫瘍グループ長として、多くの先生たちとともに基礎研究、臨床研究(国内共同研究、臨床治験を含む)の実践・報告に邁進しました。結局、2014年に教授になるまでに、英文論文118編(原著論文 106編、総説 1編、症例報告 11編)を報告できました。その中で代表的な論文を4つ挙げます。

  1. Toyoda Y, Shinohara N, Harabayashi T, Abe T, Akino T, Sazawa A, Nonomura K: Survival and prognostic classification of patients with metastatic renal cell carcinoma of bone. Eur. Urol. 52(1), 163-168, 2007 [IF 23.4 CI 21]
  2. Abe T, Shinohara N, Harabayashi T, Sazawa A, Maruyama S, Suzuki S, Nonomura K.:Impact of Multimodal Treatment on Survival in Patients with Metastatic Urothelial Cancer. Eur. Urol. 52 (4), 1106-1113, 2007 [IF 23.4, CI 23]
  3. Naito S, Eto M, Shinohara N, Tomita Y, Fujisawa M, Namiki M, Nishikido M, Usami M, Tsukamoto T, Akaza H: Multicenter phase II trial of S-1 in patients with cytokine-refractory metastatic renal cell carcinoma. J. Clin. Oncol. 28, 5022-5028, 2010 [IF 45.3 , CI 1]
  4. Shinohara N, Nonomura N, Eto M, Kimura G, Minami H, Tokunaga S, Naito S. A randomized multicenter phase II trial on the efficacy of a hydrocolloid dressing containing ceramide with a low-friction external surface for hand-foot skinreaction caused by sorafenib in patients with renal cell carcinoma. Ann Oncol. 2014 Feb;25(2):472-6. [IF 50.5, CI 14]

どれも思入れの多い論文ですが、4つめの論文は有害事象対策をランダム化試験で評価したというもので、新規性が高いものだったと思います。

そのころの臨床に関しては、腹腔鏡手術の導入・発展期であったこともあり、これら手術を多く実施しました。その中で、私自身もLap副腎摘除術で腹腔鏡手術の技術認定を得ることができました。それ以外にも、腎癌下大静脈血栓症例の手術を多く経験、さらに野々村教授の指導のもと、小腸利用代用尿管手術などいろいろな再建手術にも携わることができました。また、小児の陰茎先端に発生したprimitive neuroectodermal tumorも経験しました。この患者さんは、陰茎切断後1年間に渡り全身化学療法を施行、再発転移がないことを確認後前腕の遊離皮弁を用いた陰茎形成術を作成し、完全治癒とともに陰茎再建に成功しました。この結果を第9回泌尿器科再建再生研究会で発表し、研究会賞を受賞できました。

Akino T, Shinohara N, Hatanaka K, Kobayashi N, Yamamoto Y, Nonomura K. Successful penile reconstruction after multimodal therapy in patients with primitive neuroectodermal tumor originating from the penis. Int J Urol. 2014 Jun;21(6):619-21.. [IF 2.6, CI 2]

このような経験を経て、2014年10月に北海道大学大学院医学研究科 腎泌尿器外科の第4代教授に就任することができました。自分以外の多くの先輩、同僚、後輩たちの協力があっての結果だったと思い、心から感謝しました。

2015年夏の木曜会
この中にのちに教授になった先生が3名いらっしゃいます。

2014年(教授就任時のメンバー)

教授就任後、臨床面でまず最初に取り組んだのが、手術支援ロボット(ダビンチ)の導入と実践でした。この時は1世代前の機種、ダビンチSiでした。自分自身、恵佑会札幌病院において平川先生とともにダビンチ手術(前立腺全摘除術;RARP)を開始しておりましたが、北海道大学病院での実践は最初であり、いろいろな苦労がありました。しかし、安部先生、丸山先生など泌尿器科医師、麻酔科医師、看護スタッフ、臨床工学士など手術部のスタッフの協力のおかげで安全に導入でき、手術件数も増加させることができました。

ロボット支援手術100症例記念

その後、泌尿器科領域だけでなく、消化器外科、呼吸器外科、産婦人科などの手術にも適応が拡大され、さらに手術件数は増加、年間300件以上にまで到達しました。途中、ダビンチはSiから最新型のXiに更新はされましたが、手術件数の増加には対応できず、いよいよ来年度には2台目のダビンチXiが導入されることとなりました。本当に良かったなと思いますが、今後さらにロボット手術が一般化すると3台目の購入も念頭に言えれざるを得ないという状況です。また、北海道大学病院以外でも、道内関連18病院で手術支援ロボット(ダビンチ)が導入され、ロボット支援手術の均てん化という意味でも貢献できたのではないかな、と考えています。

それでは、ロボット支援手術以外の臨床・研究はどうでしょうか?
当科は大きく4つのグループから構成されています。

  1. 腎移植・血管外科グループ
  2. 小児グループ
  3. Neurourology & Urodynamicsグループ
  4. 腫瘍グループ

これら4つのグループが切磋琢磨し、日々の臨床、そして研究に邁進してまいりました。それぞれのグループからは毎年素晴らしい論文が投稿・掲載されてきています。教授に2014年10月に就任して以来これまでの9年3か月間で、英文論文232編(原著論文 198編、総説 9編、症例報告 25編)を報告できました。その中で代表的な論文を4つ挙げます。

  1. Moriya K, Mitsui T, Kitta T, Nakamura M, Kanno Y, Kon M, Nishimura Y, Shinohara N, Nonomura K: Early Discontinuation of Antibiotic Prophylaxis in Patients with Persistent Primary Vesicoureteral Reflux Initially Detected during Infancy: Outcome Analysis and Risk Factors for Febrile Urinary Tract Infection. J Urol 2015, 193(2):637-642. [IF 6.6, CI 6]
  2. Kikuchi H, Maishi N, Annan DA, Alam MT, Dawood RIH, Sato M, Morimoto M, Takeda R, Ishizuka K, Matsumoto R, Akino T, Tsuchiya K, Abe T, Osawa T, Miyajima N, Maruyama S, Harabayashi T, Azuma M, Yamashiro K, Ameda K, Kashiwagi A, Matsuno Y, Hida Y, Shinohara N, Hida K. Chemotherapy-Induced IL8 Upregulates MDR1/ABCB1 in Tumor Blood Vessels and Results in Unfavorable Outcome. Cancer Res. 2020 Jul 15;80(14):2996-3008.. [IF 11.2, CI 13]
  3. Aydın A, Ahmed K, Abe T, Raison N, Van Hemelrijck M, Garmo H, Ahmed HU, Mukhtar F, Al-Jabir A, Brunckhorst O, Shinohara N, Zhu W, Zeng G, Sfakianos JP, Gupta M, Tewari A, Gözen AS, Rassweiler J, Skolarikos A, Kunit T, Knoll T, Moltzahn F, Thalmann GN, Lantz Powers AG, Chew BH, Sarica K, Shamim Khan M, Dasgupta P; SIMULATE Trial Group. Effect of Simulation-based Training on Surgical Proficiency and Patient Outcomes: A Randomised Controlled Clinical and Educational Trial. Eur Urol. 2022 Apr;81(4):385-393.. [IF 23.4, CI 13]
  4. Iwahara N, Hotta K, Iwami D, Tanabe T, Tanaka Y, Ito YM, Otsuka T, Murai S, Takada Y, Higuchi H, Sasaki H, Hirose T, Harada H, Shinohara N. Analysis of T-cell alloantigen response via a direct pathway in kidney transplant recipients with donor-specific antibodies. Front Immunol. 2023 May 3;14:1164794. [IF 7.3, CI 0]

この中で、Aydınらの論文は尿管鏡検査技能の上達にシミュレーション訓練施行の有無が影響するかどうかを国際共同ランダム化試験で検討したものです。自分自身、このような外科教育のような領域のものが研究のテーマとなるのか?と思っていましたが、この研究の後(安部先生の帰国後)多くの外科教育の研究が実施され、多くの論文が作成されています。その点で、この論文は新たな研究テーマを我々に与えてくれたものとして、画期的なものであると思っています。
このように各4グループで多くの業績(研究のみならず、臨床も含めて)が挙げられた結果、グループのトップの先生が他大学の教授になられています。

  1. 岩見大基(腎移植・血管外科グループ):自治医科大学医学部泌尿器科(腎移植部門)
  2. 守屋仁彦(小児グループ):自治医科大学とちぎ医療センター 小児泌尿器科
  3. 三井貴彦(Neurourology & Urodynamicsグループ) 山梨大学医学部泌尿器科

今後、Neurourology & Urodynamicsグループ、腫瘍グループのトップの先生が教授になることが見込まれています。それ以外にも、多くの業績を挙げられている先生が数人おられますので、今後期待されます。

先生方の写真1
先生方の写真2

教授になってからの教育(学生、大学院)について簡単に触れたいと思います。当初は自分が学生教育にかかわっていましたが、後半は安部准教授が積極的に行ってくれました。

特に2020-2023年のコロナ禍の時期は、学生教育は系統講義にしろ臨床実習にしろ非常に大変でしたが、ZOOMを用いた教育をうまく導入することができ、乗り切ることができました。ここには安部准教授以外にもすべてのスタッフが積極的に協力してくれたことも大きく、すべてのスタッフに感謝しています。

最後になりますが、腎泌尿器外科学教室の教授であった9年半は、自分の人生を振り返っても本当に幸せな、珠玉の時間でした。そこには守屋准教授、安部准教授を含め、多くのスタッフが自分を助けてくれたおかげだと思います。同時に自分を支えてくれた多くの医局スタッフ(村井特任研究助教、事務職員の方々、技術職員の方々)、さらに北海道大学病院の8-1の看護スタッフ、泌尿器科外来のスタッフに心から感謝いたします。今後4月以後は釧路労災病院において地域医療に積極的に取り組んでいきたいと思っています。

LIST 本当に強い人 1謙虚な姿勢 2優しい言葉を使う 3責任感を持ち行動する 4他人を許すことができる 5自分のことをよく利用している 6素直に助けを求めることができる 7困っている人には手を差し伸べる 8感情を自分でコントロールすることができる

好きな言葉です。

略歴

生年月日

昭和33年11月24日生まれ(64歳)

出生地

徳島県阿南市

経歴

昭和52年3月
神奈川県立希望が丘高校 卒業
昭和53年4月
北海道大学医学部医学科 入学 (60期)
昭和59年3月
北海道大学医学部医学科 卒業
昭和59年6月
北海道大学医学部附属病院 泌尿器科入局
昭和60年4月
苫小牧市立病院 泌尿器科
昭和62年4月
市立稚内病院 泌尿器科 副医長
平成元年 7月
米国ミシガン大学(1年間)
Barton Grossman教授の下で抗がん剤耐性機構を研究
平成3年 4月
北海道大学医学部附属病院 泌尿器科 医員
平成4年10月
北海道大学医学部附属病院 泌尿器科 助手
平成11年9月
北海道大学医学部附属病院 泌尿器科 講師
平成17年7月
北海道大学大学院医学研究科腎泌尿器外科学 助教授
平成19年4月
北海道大学大学院医学研究科腎泌尿器外科学 准教授
平成26年10月
北海道大学大学院医学研究科腎泌尿器外科学分野 教授
平成29年4月
北海道大学大学院医学研究院腎泌尿器外科学教室 教授

現在に至る

学位

平成8年9月1日 医学博士学位取得(北海道大学)

所属学会

米国泌尿器科学会(AUA)会員、米国臨床腫瘍学会(ASCO)会員、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)会員、日本泌尿器科学会代議員、日本泌尿器腫瘍学会理事、日本癌治療学会代議員、日本癌学会会員、日本人類遺伝学会会員、日本小児泌尿器科学会会員、日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会会員、腎癌研究会会長

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