泌尿器悪性腫瘍

精巣腫瘍

更新日:2024/4/22

概説

精巣腫瘍とは

精巣は、睾丸(こうがん)とも呼ばれ、陰嚢(いんのう)の中に左右に1つずつ入った卵型の臓器です。精巣腫瘍とは男性の精巣にできる腫瘍で、病気になる割合(罹患率(りかんりつ))は10万人に1人程度とされ、比較的まれです。しかし、他の多くの腫瘍と異なり、若い人に多く罹患(りかん)します。実際に20歳代から30歳代の男性では、最もかかる数が多い固形腫瘍(白血病などの血液腫瘍以外の腫瘍)です。悪性(がん)で進行が速いという特徴がありますが、一方で他の臓器に転移(がんが移動して増えること)のある進行症例でも、抗がん剤による化学療法と手術の組み合わせで完全に治る可能性が高いことも特徴のひとつです。また、後ほど説明するような腫瘍マーカーが診断、予後評価、治療方針の決定に極めて有用な腫瘍でもあります。

精巣腫瘍の図

国立がん研究センター がん情報サービス より

セミノーマ、非セミノーマ

精巣腫瘍は大きく2種類に分類されます。セミノーマ(精上皮腫(せいじょうひしゅ))と、非セミノーマ(非精上皮腫(ひせいじょうひしゅ))の2つです。非セミノーマには胎児性がん、卵黄嚢腫(らんおうのうしゅ)、絨毛(じゅうもう)がん、奇形腫があり、これらが混在していることもあります。精巣腫瘍は一般的に転移し易く、代表的なものとして、後腹膜リンパ節、肺、肝臓が挙げられます。セミノーマであるか非セミノーマであるかは、その後の治療方針を決定する上で非常に重要です。その理由は、セミノーマでは放射線治療と化学療法の両方が有効であるのに対して、非セミノーマでは放射線治療の効果は低いからです。

症状

精巣腫瘍の主な症状は、痛みを伴わない精巣の腫(は)れやしこりです。ゆっくりと大きくなることが多い反面、比較的短期間で他の臓器に転移を起こすため、様々な全身症状が出ることもあります。例えば、お腹のリンパ節転移の場合ではお腹のしこり、腹痛、腰痛などが、肺転移の場合では息切れ、咳、血痰(けったん)などが、脳転移の場合では頭痛、吐き気、めまいなどが挙げられます。

原因

精巣腫瘍の原因は明らかにされていませんが、発生率を高めるリスクとして停留精巣(子供の頃に精巣が陰嚢(いんのう)内に納まっていない病態)が有名であり、2~10倍高くなるといわれています。他にも家族に精巣腫瘍に罹患(りかん)した人がいる場合は4~8倍、反対側の精巣に腫瘍があった場合は25倍になるとの報告もあります。

診断

検査

精巣腫瘍は陰嚢(いんのう)のしこりを直接触って診察することでおおよそわかります。さらに超音波エコー検査にて、しこりの中身を確認します。他の臓器に転移があるかはCTにて全身を検索します。また、あわせて血液検査を行い、腫瘍マーカー(hCG、AFP、LDH)の数値を調べます。

病期

病期とは、腫瘍の大きさや広がり、転移の有無によって決まるがんの進行具合を示したものです。Stage(ステージ)とも言います。I期、II期、III期などと分類され、数が大きくなるほど、進行していることを意味します。また病期に加えて、腫瘍マーカーの値も含めて分類する、国際胚細胞腫瘍予後分類(IGCCC)も予後を予測するのに有用です。たとえ、予後不良の分類となっても近年治療成績は飛躍的に改善し、約70-80%で治癒が期待できます。

病期(Stage)(UICC第8版)

■T分類(病気の広がり)

T0:原発腫瘍を認めない
Tis:精細管内胚細胞腫瘍(上皮内癌)
T1:脈管浸潤を伴わない精巣および精巣上体に限局する腫瘍。浸潤は白膜までで、粘膜には浸潤していない腫瘍
T2:脈管浸潤を伴う精巣および精巣上体に限局する腫瘍。また白膜を越え、鞘膜に進展する腫瘍
T3:脈管浸潤には関係なく、精索に浸潤する腫瘍
T4:脈管浸潤には関係なく、陰嚢に浸潤する腫瘍

■N分類(リンパ節転移)

N0:領域リンパ節転移なし
N1:最大径が2cm以下の単発性または多発性リンパ節転移
N2:最大径が2㎝を超えるが、5㎝以下の単発性または多発性リンパ節転移
N3:最大径が5cmを超えるリンパ節転移

■M分類(別の臓器への転移)

M0:転移なし
M1:転移あり
  M1a 領域リンパ節以外のリンパ節転移、または肺転移
  M1b 領域リンパ節以外のリンパ節転移を肺転移を除く遠隔転移

■S分類(血清主腫瘍マーカー)

S0:血清腫瘍マーカー値が成長範囲内
   LDH, hCG(mIU/mL), AFP(ng/mL)
S1:<1.5 x正常値上限, および<5000, および<1000
S2:1.5-10 x正常値上限,および5000~50000, または1000~10000
S3:>10 x正常値上限, または>50000, または>10000

病期
(Stage)
原発腫瘍 所属リンパ節
転移
遠隔転移 腫瘍マーカー
0期 pTis N0 M0 S0
Ⅰ期 pT1-4 N0 M0 SX
 ⅠA期 pT1 N0 M0 S0
 ⅠB期 pT2-4 N0 M0 S0
 ⅠS期 pT/TXに関係なく N M0 S1-3
Ⅱ期 pT/TXに関係なく N1-3 M0 SX
 ⅡA期 pT/TXに関係なく N1 M0 S0, S1
 ⅡB期 pT/TXに関係なく N2 M0 S0, S1
 ⅡC期 pT/TXに関係なく N3 M0 S0, S1
Ⅲ期 pT/TXに関係なく Nに関係なく M1a SX
 ⅢA期 pT/TXに関係なく Nに関係なく M1a S0, S1
 ⅢB期 pT/TXに関係なく N1-3 M0 S2
pT/TXに関係なく Nに関係なく M1a S2
 ⅢC期 pT/TXに関係なく N1-3 M0 S3
pT/TXに関係なく Nに関係なく M1a S3
pT/TXに関係なく Nに関係なく M1b Sに関係なく

国際胚細胞腫瘍予後分類(IGCCC)によるリスク分類

低リスク
セミノーマ 非セミノーマ
肺以外に転移なし かつ
AFP正常範囲内
hCG, LDHは問わない
肺以外に転移なし かつ
AFP< 1000ng/ml かつ
hCG< 5000IU/L かつ
LDH< 1.5x 正常値上限
中リスク
セミノーマ 非セミノーマ
肺以外に転移あり かつ
AFP正常範囲内
hGC, LDHは問わない
肺以外に転移なし かつ
1000ng/ml ≤ AFP ≤ 10000ng/ml または
5000IU/L ≤ hCG ≤ 50000IU/L または
1.5x 正常値上限 ≤ LDH ≤ 10x 正常値上限
高リスク
セミノーマ 非セミノーマ
該当するものなし 肺以外に転移あり または
10000ng/ml < AFP または
50000IU/L < hCGまたは
10x 正常値上限 < LDH

治療

転移のない精巣腫瘍(StageⅠ)

  • セミノーマ
    通常、再発15-20%程度と言われています。再発しても化学療法でほぼ100%治癒することができるため、まずは追加治療をせずに経過観察を行うことも多いですが、再発率を下げるため予防的に放射線治療や化学療法を行う選択肢もあります。予防的な放射線治療では、再発率は5%以下となりますが、長期間経過すると二次的な発がんリスクがあります。当院では、放射線治療と同等の効果と言われている化学療法(カルボプラチン療法)を行っております。
  • 非セミノーマ
    精巣の脈管への腫瘍浸潤の有無で再発リスクが変わります。脈管への浸潤を認めない場合は精巣の摘出後、追加治療をせずに経過観察をすることも可能ですが、再発を見落とさないよう通院をきちんと続けることが非常に重要です。再発率を下げる目的で腹腔鏡を用いて後腹膜リンパ節郭清を行うこともあります。脈管への浸潤を認める場合には精巣の摘出後に再発予防として追加の化学療法(BEP療法(化学療法)1コース)を施行します。

転移のある精巣腫瘍(StageⅡ, Ⅲ, Ⅳ)

International Germ Cell 分類に基づき、転移のある部位、腫瘍マーカー(血液検査でのAFP, hCG, LDH)の値により低・中・高リスクの分類を行います。リスクにより初回の治療方針が異なります。

  • 低リスク:BEP3コースかEP4コース
  • 中・高リスク:BEP4コースかVIP4コース
    → 化学療法終了後に病変の画像評価を行い、以下の方針となります。
    • 腫瘍マーカー正常化が得られている場合
      非セミノーマ
      原則として残存腫瘍の切除を行います(例;後腹膜(腹部)リンパ節であれば同部位の郭清術(かくせいじゅつ)を行います。肺病変があれば、肺切除術を呼吸器外科に依頼します)。手術の結果により、化学療法を追加する場合もあります。
      セミノーマ
      PET所見などを参考にして、残存腫瘍の切除をせずに経過をみることをもあります。
    • 腫瘍マーカー正常化が得られていない場合
      救済化学療法を行います。

抗癌剤による副作用について

  • 抗がん剤で妊孕性(にんようせい)が失われる可能性があるため、治療前の精子保存をお勧めしています。当院では産婦人科で精子保存を行うことができます。
  • ブレオマイシン(抗がん剤)では、薬剤が原因となり肺炎を起こす可能性があり、喫煙者では特にその確率が増えますので、その方に合わせた薬剤変更なども行っています。
  • 一時的な骨髄抑制(血液を作る機能が低下します。白血球低下により感染しやすくなる、血小板低下により出血しやすくなる、赤血球低下により貧血症状が起こる、などの副作用があります。)
  • その他副作用については主治医より詳細に説明いたします。

治療後

治療後のフォローアップ

外来で反対側の精巣の確認、血液検査(腫瘍マーカーなど)、CT等の画像検査(北大病院では頻回のCT撮像を行う方のために、低線量CTを導入しています)を施行します。再発は2年以内に起こることが多いですが、晩期での再発の可能性もあり長期フォローアップの必要があります。

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