泌尿器悪性腫瘍

腎盂癌・尿管癌

更新日:2024/4/22

概説

腎盂癌、尿管癌とは

「腎盂」「尿管」と聞き慣れない場所は身体のどの部分なのでしょうか。尿は腎臓で作られ体外へ排出されます。その流れ道(尿路)のうち、腎臓内部中央に尿が流れ落ちる空洞があり「腎盂(じんう)」と呼ばれています。また、その腎盂から膀胱までつながる1本の流れ道は「尿管」と呼ばれています。腎盂癌、尿管癌とはこれら膀胱に至るまでの流れ道のいずれかに癌ができることを指しています。
膀胱癌と同様に尿路上皮粘膜より発生する悪性腫瘍であるものの、膀胱癌と比べ比較的稀な疾患です。中年以降の男性に頻度が高く、喫煙、慢性感染、特定の化学物質が発症の危険因子とされています。
発生の特徴として「空間的・時間的」に尿路のどこにおいても発症する危険性があります。よって診断は尿検査、膀胱鏡検査、尿細胞診検査、CT検査、直接尿路内を覗く尿管鏡検査などを行い、全尿路を検査することで診断を行います。
基本的な標準治療は手術で腎尿管全摘除術を行うことです。転移がある場合には症例に応じて抗癌剤などを用いた薬物治療を行います。

疫学

尿路のほとんどは尿路上皮で覆われており、腎盂癌、尿管癌は尿路上皮にできる癌の5 %を占めるとされています。50-70歳代で多く認められ、男性の方が女性よりも2倍以上頻度が高いとされています。腎盂癌、尿管癌の罹患数は2016年にそれぞれ4359人、4124人であり2019年にはそれぞれ4508人、4315人と軽度な増加傾向を示しています。

病因

発症の危険因子として喫煙、尿路結石に伴う慢性感染、特定の化学物質などが発症の危険因子とされています。なかでも喫煙については非喫煙者と比較し発症リスクが約3倍になるとされています。

症状

腎盂・尿管がんの症状は、赤色の尿(肉眼的血尿)が出ることや、尿管に腫瘍ができて尿の通り道が閉塞することによる一側の腰背部の痛みも出ることがあります。初期には自覚症状がないことも多く、検診などで自分の目に見えない血尿(顕微鏡的血尿)や、超音波検査で腎臓に尿が貯留し腫れている所見(水腎症)を指摘されて偶然に見つかることもあります。

診断

検査

腎盂・尿管がんが疑われた場合、超音波(エコー)検査、尿細胞診、CTウログラフィー(CT尿路造影)検査が行われます。腎盂・尿管がんは同時に膀胱癌を併発することがしばしば認められるため、膀胱鏡検査も行います。
がんがあるかを確定するために、入院・麻酔を使用したうえで尿管鏡検査を行い、がんの診断を確定させます。
がんの診断がついたら、遠隔転移の判定のために全身CT検査や骨シンチグラフィが行われます。

  • 尿管鏡検査:3-6日程度の入院で行います。腰椎麻酔あるいは全身麻酔を使用して尿道から尿管に細い内視鏡を挿入して尿管や腎盂のなかに病変があるかどうかを調べます。がんを疑う病変があった場合は、少量の組織を採取したり(組織生検)、腎盂・尿管内の洗浄液を採取したりして(細胞診)顕微鏡で確定診断を行います。膀胱がんを合併している場合は、同時に経尿道的膀胱腫瘍切除(TURBT)を行うことがあります。

■病期(Stage分類)

■T分類(病気の広がり)

T0:原発腫瘍を認めない
Ta:乳頭状非浸潤がん
Tis:上皮内がん
T1:がんが上皮下結合組織に浸潤
T2:がんが筋層に浸潤
T3:腎盂:筋層をこえて腎盂周囲脂肪組織または腎実質に浸潤
尿管:筋層をこえて尿管周囲脂肪組織に浸潤

T4:隣接臓器または腎実質をこえて腎周囲脂肪組織に浸潤

■N分類(リンパ節転移)

N0:リンパ節転移なし
N1:最大径が2㎝以下の単発性リンパ節転移
N2:最大径が2cmをこえる単発性リンパ節転移、もしくは多発性リンパ節転移

■M分類(別の臓器への転移)

M0:転移なし
M1:転移あり

■病期(Stage分類)

病期
(Stage)
原発腫瘍 所属リンパ節
転移
遠隔転移
0a期 Ta N0 M0
0is期 Tis N0 M0
Ⅰ期 T1 N0 M0
Ⅱ期 T2 N0 M0
Ⅲ期 T3 N0 M0
Ⅳ期 T4b N0 M0
いずれのT N1, N2 M0
いずれのT いずれのN M1

治療

手術

腎盂癌、尿管癌は尿路内腔全体に空間的・時間的に多発するとされています。よって一般的に尿路以外への転移がない場合には、腎臓と尿管を摘出する手術(腎尿管全摘除術)を行います。
また診断時に8.5-13%が膀胱にも癌を認めるとされており、その場合は上記手術に先行または同時に経尿道的膀胱腫瘍切除術(※膀胱癌の項参照)を追加で行います。

■腎尿管全摘除術

腎臓の遊離、尿管の剥離、尿管下端の切除と切除断端部(膀胱部)の縫合を行います。(右上図下図)
腫瘍の進行度などを踏まえて開腹、鏡視下での手術のいずれかを選択します。
令和4年4月よりロボット支援腹腔鏡下腎尿管全摘除術が保険適応となりました。術者がより鮮明な3D画像で、自由度の高いロボットアームを使用することで、従来の腹腔鏡手術と比較してより正確に手早く手術を行うことが期待されます。当院においても症例に応じて施行可能です。

手術の図

化学療法

診断時に尿路以外に転移を来している場合、また手術後に再発を来した場合、これらの場合には抗癌剤を用いた薬物療法を用いた治療から開始します。
一般的に膀胱癌の治療法に準じて行います。(※膀胱癌の項参照)

■術前補助療法について

術前の画像検査で局所進行がんが疑われる場合は、術前に抗がん剤治療を投与してから手術を行う術前補助療法をお勧めすることがあります。

■術後補助療法について

腎尿管全摘除術の結果、癌の進行度や、リンパ節転移の有無を踏まえて、抗癌剤や免疫療法を用いた術後補助療法をお勧めすることがあります。

治療後

検査

腎盂尿管癌術後は局所の再発や遠隔転移が約25 %に生じ、膀胱内再発が約15-50 %程度で発生するとされています。
そのため通常3-6ヶ月ごとに通院し、来院ごとに定期的な尿細胞診・膀胱鏡・血液検査を行い、尿路内の再発の有無や合併症の有無などを確認します。また、遠隔転移の有無を確認することを目的としてCT検査などの画像検査を定期的に行います。

上記定期検査で例えば膀胱内に再発した際には、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)が必要となります。遠隔転移が出現した場合は基本的には薬物療法を行います。

生存率

腎尿管全摘除術を施行して5年後に生存している割合(5年生存率)は摘出した癌の組織進行度ごとに分けるとpTa:80-100 %、pT1:83-97 %、pT2:72-79 %、pT3:41-51 %、pT4:0-16 %と報告されております。

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