泌尿器悪性腫瘍

前立腺癌

更新日:2024/4/22

概説

前立腺について

前立腺は、膀胱の下に位置して尿道を取り囲んでいる組織で男性にしかありません。前立腺は精液のもとになっている前立腺液を作っています。加齢によって前立腺が大きくなり、頻尿や残尿感といった下部尿路症状を生じることがあります(前立腺肥大症)。

前立腺の図

国立がん研究センター がん情報サービス より

前立腺がんとは

前立腺がんは前立腺から発生するがんで、多くは腺がんという種類です。前立腺がんはPSA検査や画像診断で診断されます。早期の場合は症状はありません。前立腺の局所の症状としては排尿障害や血尿、転移をきたすことによって骨痛や神経麻痺がみられることがあります。男性ホルモン(テストステロン)が病気の進行に重要と言われています。

疫学

欧米人に多く、高齢の男性に好発します。食事や肥満や糖尿病などの生活習慣病が一因ともいわれています。遺伝性も指摘されており、親兄弟に前立腺がん患者がいた場合、罹患危険率は2.4~5.6倍になるといわれています。

前立腺がんの多くは数十年の経過で極めて緩徐に成長すると考えられ、前立腺がん保有者の多くは診断されることなく他疾患で死亡し、一部が検診あるいは臨床症状の発現から診断されていると推定されます。しかし、臨床的に診断される前立腺がんの一部は進行して致死的になりえます。

診断

検査

前立腺がんが疑われる場合は、以下の検査を行います。

  • PSA検査(後述)
  • 直腸診検査:肛門から指を入れて前立腺の硬さ、大きさを調べます。
  • 超音波検査:前立腺や精嚢の形態をベッドサイドで調べることができます。
  • MRI検査:前立腺がんが疑わしい病変の有無、病変の広がりを確認します。

以上の検査で前立腺がんが疑わしい場合、前立腺から直接組織を取る「生検」を行います。通常は肛門からエコーを挿入して針で左右6か所ずつ、計12か所本検体を採取します。入院で行うところや外来で行うところ、麻酔をかけるかどうかについては施設によって異なりますが、当院では3-5日程度の入院で、腰椎麻酔(下半身麻酔)を施行して生検を行っています。MRIで疑わしい病変がある場合は、その部分を狙って生検を行うMRI/エコー融合標的生検を行っています。

検査の図

国立がん研究センター がん情報サービス より

前立腺がんが確定した場合は、以下の検査を行います。

  • CT:リンパ節や肺や肝臓などへの転移の有無を確認します
  • 骨シンチブラフィ:薬剤を静脈内に投与し、骨に異常な集積がないかどうかを調べる検査です。骨転移の有無を確認します。

これらを総合して治療方針を決定します。

PSA検査について

PSA(Prostate Specific Antigen:前立腺特異抗原)は前立腺で産生される蛋白で、血液の中にわずかに溶け込みます。血液中のPSAの値を測定することができ、この値が高いと次のような前立腺の病気の可能性があります。

  1. 前立腺肥大症:前立腺が大きくなるもので、50歳以上の男性に多く、排尿困難になることがあります。
  2. 前立腺炎:前立腺の感染や炎症です。
  3. 前立腺がん

PSA検査は簡単な血液検査ですが、PSAの値だけで前立腺がんの有無がわかるわけではありません。0~4.0ng/mlを一般に正常値とみていますが、4.0ng/ml以上であっても前立腺がんでない人は多いですし、4.0ng/ml未満だからといって絶対に前立腺がんではないと断言することはできません。PSAの値とがんの可能性を示す表です。

PSA (ng/ml) がんの可能性
~4.0 数%
4.0~10 10~30%
10以上 50%以上

また、最近では年齢ごとにPSAの正常値を設定することもあります。50~64歳では0~3.0ng/mL、65~69歳では0~3.5ng/mL、70歳以上では0~4.0ng/mLと正常値を設定することによって前立腺がんの死亡リスクを減少することが報告されています。

年齢 (歳) PSA (ng/ml)
50~64 0~3.0
65~69 0~3.5
70以上 0~4.0

病期

病期(Stage分類)(UICC第8版)

■T分類(がんの広がり)

T0:原発腫瘍なし
T1:触知不能で画像診断で明らかでない
  T1a:前立腺肥大手術等で偶発的に発見され、切除組織の5%以下の腫瘍
  T1b:前立腺肥大手術等で偶発的に発見され、切除組織の5%超の腫瘍
  T1c:前立腺特異抗原(PSA)の上昇などのため針生検により確認された腫瘍
T2:触知可能で前立腺に限局する腫瘍
  T2a:片葉の1/2以内に進展する腫瘍
  T2b:片葉の1/2を超え進展するが、両葉には及ばない腫瘍
  T2c:両葉へ進展する腫瘍
T3:前立腺被膜を超えて進展する腫瘍
  T3a:前立腺外へ進展する腫瘍
  T3b:精嚢に浸潤する腫瘍
T4:精嚢以外の隣接臓器に浸潤する腫瘍

■N分類(リンパ節転移)

N0:リンパ節転移なし
N1:所属リンパ節転移あり

■M分類(別の臓器への転移)

M0:転移なし
M1:転移あり

病期
(Stage)
原発腫瘍 所属リンパ節
転移
遠隔転移
Ⅰ期 T1, T2a N0 M0
Ⅱ期 T2b, T2c N0 M0
Ⅲ期 T3, T4 N0 M0
Ⅳ期 いずれのT N1 M0
いずれのT いずれのN M1

治療

早期前立腺癌の治療選択について

早期前立腺癌の治療選択についての図

国立がん研究センター がん情報サービス より
早期前立腺がんの治療選択に関するパンフレットはこちらからダウンロードできます

PSA監視療法

PSA監視療法とは、PSA値が低く、直腸診(医師による前立腺の診察)やMRIでがんが大きく広がっておらず、前立腺生検の診断で悪性度が低いがん(低リスク前立腺がん)と診断された場合に、すぐに治療をせず、PSAを測定しながら経過を見る方法で、治療選択肢としてガイドライン*でも推奨されている治療法の一つです。なぜこのような治療が可能かというと、低リスク前立腺がんは進行が遅いがんであることが多いからです。注意して経過観察をすることにより、不必要な治療とそれ伴う合併症を避けることができると言われています。3-6ヶ月ごとにPSA採血および直腸診を行い、1〜3年ごとに前立腺生検を行います。がんの進行が見られる場合には通常は積極的治療(手術や放射線治療)を行います。30-40%くらいの人が1年目の生検結果で、積極的治療が必要になると言われています。

*前立腺癌診療ガイドライン2016年版

PSA監視療法の図

手術治療

■ロボット支援腹腔鏡下前立腺摘除術(RARP)について

限局性前立腺癌に対する手術で、前立腺を摘除し、尿道と膀胱を吻合(ふんごう)します。腹腔鏡下根治的前立腺摘除術をロボット支援下にて行うものですが、従来の手術方に比べてより繊細で、正確な手術を行う事ができ、根治性(がんを手術で治しきれる可能性)、尿禁制(尿もれがない状態)を含む機能温存において、より優れていると考えられています。
前立腺がんに対するロボット支援腹腔鏡下根治的前立腺全摘除術(RARP) は2012年4月に保険適応となり、当院では、2013年6月よりRARPを開始し、これまでのところ大きなトラブルなく300例以上継続して行っています。また、リスク分類や画像所見に応じて機能温存手術、標準手術、拡大手術を使い分けて成績向上に努めています。通常の入院期間は10日間程度です。

■手術内容

  • 腹部にポート(手術のための穴)を設置(切開穴は5-12mmで、全部で6カ所)
  • 前立腺を剥離・切除したあと、膀胱と尿道を吻合(ふんごう)します。
  • 骨盤のリンパ節郭清を行います。リスク分類に応じてリンパ節郭清施行の有無や郭清範囲を決めています。
  • 手術時間は約3-5時間を予定しています。
  • 術中判断により通常の腹腔鏡手術あるいは開腹術へと変更する場合があります。
ポート設置部位の図

■入院から退院まで

入院から退院までの図

■手術療法の良い点

がんが前立腺の中にとどまっていればがん細胞をすべて体の外に取り出せ、完全に治るこをが期待できます。また、取り出した前立腺やリンパ節を顕微鏡で検査でき、より詳しい進行度や悪性度が判ります。

■手術療法の悪い点

手術の合併症に尿もれ(尿失禁)や勃起機能不全などが生じることがあります。尿失禁は通常2-3ヶ月以内に起こらなくなりますが、ときに尿パッドが必要な尿失禁が持続する方もおられます(5%程度)。
勃起機能不全は通常の手術法では必ず起こります。勃起機能不全を防ぐために、勃起に関連する神経や血管を温存する手術法があります。しかしながら、この手術法ではがんが神経のそばにないことが事前にわかっていることが条件です。

手術療法のイメージ写真

intuitive HPより引用(https://www.intuitive.com/ja-jp/products-and-services/da-vinci)
https://www.intuitive.com/ja-jp/-/media/ISI/Intuitive/Pdf/da-vinci-xi-catalogue-japan-1064086.pdf

放射線治療

放射線治療は前立腺癌に対する有効な治療方法であり、ほぼ手術療法に匹敵する成績が報告されています。

  • 陽子線治療:限局性または局所進行性(遠隔転移のない)前立腺がんに対し陽子線治療が保険適用となります。陽子線治療は従来の放射線治療(X線)と比べて周囲の組織への影響が少なくなるというメリットがあります。
  • 放射線(陽子線)による周囲臓器への副作用を最小限に抑えるためには、照射の範囲をより精密に前立腺に限局させる必要があります。あらかじめ治療の目印となる金マーカーを埋め込みます。4-6日程度の入院で、手術室で腰椎麻酔をかけた状態で行います。また放射線による直腸炎を防ぐ目的で、直腸と前立腺の間にゲルを注入する処置を金マーカー埋め込みと同時に行います。
  • 金マーカー、ゲルの埋め込みが終わったら、放射線治療科で放射線(陽子線)治療を行います。
  • 前立腺癌のリスク分類に応じて、ホルモン治療の併用を行うこともあります。

薬物療法

手術後や放射線療法後の再発、もしくは初期診断時に転移がある患者様には、ホルモン療法が施行されます。前立腺がんは男性ホルモン(テストステロン)の影響で増殖します。そこで、男性ホルモンの分泌または作用を抑制することで、がんの増殖を抑えようというのがホルモン療法です。前立腺がんはどんなに進行していても、ホルモン療法により腫瘍の縮小や病気に伴う症状を軽くすることができます。

薬物療法の図

(図)東邦大学医療センター 佐倉病院 鈴木啓悦先生より

ホルモン療法には手術(除睾術/精巣摘出術)や定期的(1-6ヶ月おき)注射(LH-RHアゴニスト/アンタゴニスト)で男性ホルモンの分泌を抑制する方法と、毎日の内服(抗男性ホルモン薬)で男性ホルモンの作用を抑制する方法の2つがあります。まずは男性ホルモンの分泌を抑える治療が基本となるため、手術か注射を行います。効果が不十分な場合には男性ホルモンの作用を抑制する内服薬を追加します。また、患者さんのがんの進行具合によっては、最初から両者を併用することもあります。

ホルモン療法の主な副作用は勃起不全と体のほてり感や発汗(ホットフラッシュ)、倦怠感、体重増加、骨粗鬆症などです。これらの副作用は女性の更年期障害のような症状をきたし、手術でも注射でも現れます。また注射剤に限っては、治療の最初の数週間に排尿困難や排尿痛などの症状が一時的に増強することもあり、注射部位の皮膚障害や薬物による肝障害などの副作用の可能性もあります。

また、注意をしなければならないのは、ホルモン療法は治療を開始した当初は効果を発揮しますが、いずれ効かなくなる時がきます。ホルモン療法が効かなくなったがんは、去勢レベルの微量のホルモンでも増殖するがんということで、去勢抵抗性前立腺がんと呼ばれます。

去勢抵抗性前立腺がんの図

新規に診断された転移性前立腺がんや、去勢抵抗性前立腺がんの治療には、新規ホルモン薬化学療法(抗がん剤)が使用されます。新規ホルモン薬にはエンザルタミドアビラテロンアパルタミドダロルタミドが含まれます。それぞれに薬の飲み方や副作用の起こり方などの特徴が異なり、医師と相談して使用する薬を決定します。

抗がん剤は血液とともに全身を循環させて増殖の早い細胞を殺す方法です。そのため、前立腺がん細胞の他に正常の健康な細胞も障害を受けます。その結果、重篤な血球減少や感染症、手足のしびれ、食欲不振、全身倦怠感、下痢、脱毛などの副作用が現れます。抗がん剤にはドセタキセルカバジタキセルがあります。本邦の患者様において、どのようなタイミング、どのような順番で使用するのがよいのかということについて議論されているのが、去勢抵抗性前立腺がん治療の現状です。さらに、今後も新薬の登場が期待されています。

最後にですが、前立腺の疾患で問題が起これば泌尿器科医に紹介されることになるでしょう。泌尿器科医は尿路性器系の病気の診断と治療について専門的にトレーニングされた医師です。医師と十分に話し合い治療の選択肢を理解して納得した治療を受けられるようにしてください。

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